@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 闇 の 中 の 光 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 俺の名は朝倉純一。 ここは初音島。 季節は移り行き気温の変化もあるのに、一年中桜が咲きっぱなしと言う不思議な特徴がある。 両親は仕事の都合で海外出張。 今は義理の妹・朝倉音夢と一つ屋根の下で暮らしている。妹とはいえ年は同じ。 音夢は幼い頃に両親を事故で亡くしたので、朝倉家が引き取ったのだ。 そして、今年高校3年生。うちの高校は卒業してもそのまま学園の本校(所謂、大学)に編入することになっている。 俺はかつて、おばあちゃんから魔法を教わった。 何もないところから、和菓子を出すことができる。 そして、他人の夢を見る事ができると言う、俺は情けない魔法使いだった・・・。 俺は今日も夢を見た。それもいくつかだ。 だが内容は覚えていない・・・まぁそれもいつものことだ。 夢の内容なんてのはどうでもいいことばかりだから覚えていたってしょうがない。 学校行かなきゃな・・・かったりぃ。 そう思って布団から這い出ようとすると・・・ ばさっ! 「ごゎっ!!」 「お兄ちゃーん、おはよう!朝だよぉ」 「今日はいやに過激だな・・・少しは手加減しろ・・・さくら」 芳乃さくら。隣のおばあちゃんちに住んでいる、幼馴染で同級生の女の子。 おばあちゃんはアメリカ人で、その孫だ。従姉妹にあたる。おばあちゃんはもう居ない。 それで髪も金髪、目も青い。髪は横を青のリボンで結いでいる、ツインテール。 とても女子高生とは思えない、女の子と言うに相応しい体の小ささ。 小学6年生くらいに見える。 両親と共にアメリカに行ってきたが一人日本に帰ってきた。 頭脳は学者顔負け。大の日本かぶれで口調に江戸っ子風味が漂ったりすることもある。 性格は、見ての通り、元気でおてんばだ・・・。 だが・・・ついこの前本人は事故にあった。ここに居るさくらは、本物そっくりのロボットなのだ・・・。 「さくら、お前また木からよじ登ってきたな」 俺の寝室は2階。側に大きい木があるため、そこから窓へ、部屋へと侵入される。 「えへへぇ、お兄ちゃんおはようっ!」 「ああ、おはよう・・・。じゃないっ!」 「早く学校へ行こうよぉ」 「わかった・・・わかったからどいてくれ」 さくらは俺が仰向けに寝ているところに大股開いて跨っているのだ。 さくらはその小さな体を俺から離すと、側に座った。 「・・・音夢ちゃん、まだ眠っているの・・・?」 「ああ」 その質問は、普通の『寝坊しているのか』と言う意味ではない。 俺の義理の妹・音夢は、最近『桜の花びらを吐く』と言う訳の分からない謎の病気、もしくは呪いの魔法にかかっている。 そして普段体が病弱で微熱も出しやすい音夢は、それが原因で最近学校をずっと休んでいる。 出席率が心配だ。一緒に学園に行けるのか。 それでもさくらは気を使っているのか元気に振舞ってくる。 「お兄ちゃん、今日はボクが朝食を作るね、見ててよボクのウデ!」 彼女は自分の事をボクと言う。ボクっ子だ。昔っからおてんばは変わらない。 その間、音夢の様子を見に行くと、今はすやすやと眠っているようだ。 しかし学校から帰れば・・・ 「おにいちゃーん、ご飯できたよぉーっ!?」 先に1階の台所を借りて調理をしていたさくらに呼ばれたので行くことに。 こんがりキツネ色に焼けた食パンにベーコンに目玉焼き、まぁ普通だった。 さくらはそれらを食う俺を、ニコニコしながら見ている。そして足をぶらぶらさせている。 さくらは椅子に座って足が地面に届かないほど背が小さい。まるで本当の妹のようにも見える。 それを平らげた後は2人で家を後にした。 さくらは俺に対してだけは異様に人懐っこい。 いや、人見知りしなくなってからは他人にも人当たりは良いのだが・・・ 俺にだけは他人の前でもべたべたしてくる。恋人のように。 だが他人から見れば仲の良い兄妹にしか見えないのだが、勘違いされるようなセリフとか言ったりする。 「それじゃお兄ちゃん、また後でね!」 学校の教室の前まで来れば、他人に聞こえるような声でそう告げて行った。 周りからは、ホントの兄妹みたいだとか仲が良いとか、そう言う黄色い声が聞こえてくる。 「朝倉っ、はよっ」 「ああ・・・」 水越眞子。青い髪はショートで、美人でボーイッシュ。うちのクラスの同級生で、委員長をやってる。 普段、音夢と仲がいい。 「音夢、いつ良くなるの・・・?」 「・・・」 応えられなかった。応えたかった。けど、そのまま無視してしまった。 「・・・朝倉」 「・・・お前か」 杉並。頭脳は良いが、妙なことに詳しく、性格が妖しい。微妙なポエマーになったりする。 でも真面目なときはいいやつだ。 「おれは今すごく神頼みでもしたい気分だ」 「祈りが届く方法でも教えてやろうか?」 「・・・やっぱいいわ」 馬鹿な話をしてる時だけ、辛い事を忘れられていい。そう思った。 逃げてるだけなのに。 「朝倉音夢」 担任の白河暦先生が音夢の名前を呼ぶ。出席確認だ。 彼女は化学の先生で、眼鏡をかけて、大体白衣を身に纏っている。髪は赤く長い。 「・・・」 呼ばれたそこの席は、空だった・・・。 一時間目の授業はぼーっとしてた。 二時間目は寝た。 三時間目なんて、とうとうサボった。学校の屋上でずっと一人で何か考えていた。 なんで音夢ばかりが苦しい思いをしてるのか。何故こうなったのか。どうしたら助けてやれるのか・・・。 三時間目が終わってしばらくすると、屋上に誰かやって来た。 「あれぇ〜、朝倉くぅ〜ん?」 水越萌。眞子の姉。長い髪は後ろをホワイトの大きなリボンで結いでいる。 非常におっとりした性格で、どこでも寝れる。100%中の100%天然だ。 朝の登校はいつも遅刻ギリギリ。大体、琴を首からかけ、楽しそうに鳴らしている。 ちなみに鼻の下伸ばしたくなるほどかなりの巨乳。 いや、最後のは言わなかったことにしてくれ。 「屋上で待っててくれたんですねぇ〜」 「萌先輩、あ、いや・・・」 萌先輩は学園の本校に進級した。校舎が隣にあるだけなので、あまり大学生と言う感じではない。制服でもある。 いつも屋上に来ては妹の眞子とここで昼食の鍋を食べている。 座布団と机、鍋はどこから持ち出してきているのか・・・。 すると眞子がやってきた。 「お姉ちゃん、また机と座布団と鍋借りてきたよ・・・って、朝倉っ!?」 「お前か、用意してんのは」 ちなみに材料は萌先輩が持ってる。 「なんで朝倉がここにいんの?つかあんた授業サボったでしょ!」 「お前ならわかるだろ」 「・・・」 眞子は黙ってしまった。 「まぁまぁ2人とも・・・喧嘩はいけないですよ・・・お鍋で仲直ししましょうよ〜」 萌先輩が、気の抜けそうな声でたしなめる。そう言えばお腹も空いた・・・。 何もしてないのに、気疲れしてるだけで、こんなにも弱るものなのかと思うほどに。 鍋は、しゃぶしゃぶとおでんを混ぜたような、独特のものだった。早い話が、有り得ない。 でも萌先輩はそんなことお構いナシだ。 「お、お姉ちゃん、おでんとしゃぶしゃぶは普通別だよね・・・」 「ぇぇ?そんなことないよ、眞子ちゃん?一緒に食べるのがおいしいんですよ〜  もぐもぐ・・・ ほら、おいしい!」 俺は苦笑いで萌先輩を見ていた。だが覚悟を決めて俺も食することにした。 眞子も俺の様子を見て覚悟を決めたらしい。 しかし覚悟と言うほどゲテモノではないが。 ただ、肉のアクでおでんが・・・。 ・・・・・・。 ・・・。 「眞子・・・俺たちあれ全部食べない方が良かったんじゃないのか」 結局全部食べた。腹は膨れたが、その後がかなり心配だ。 「あ、あたしもそう思う・・・」 眞子はそう言うとかなり苦しそうに机に突っ伏した。 「お前たち、一体何を食べたんだ・・・?」 杉並が訊いてきた。 「お前の好きそうなことだよ・・・」 「?」 俺は一言そう言った後は、眞子と同じように机に突っ伏した。 昼の授業は聊か真面目に受けた。 最後の授業の時は、何となく気持ち悪さが漂っていたような気がするが・・・まぁ気にしないでおこう。 授業後は、一人でとぼとぼと帰ることにした。 いつもなら隣に音夢がいた。 当たり前のように、なんとも思っていなかった。日常が日常で居れる事がこんなにも幸せだったなんて、気付かなかった。 校門を振り返る。 あいつともうこの校門をくぐることはできないんだろうか。 俺は音夢を本当の妹以上に大事に想ってきた。 それは、普通の妹には抱かない、抱いてはいけない想いなのか。 わからなかった。 再び踵を返して家の方向に歩こうとすると・・・ 「朝倉せんぱーーーいっっっ」 「あ、朝倉くん?」 ほぼ同時に誰かに呼び止められた。 「・・・美春と・・・ことり・・・?」 「朝倉くん、大丈夫・・・?」 なんで俺が心配されているんだろう・・・? 「あーっ、白川ことり先輩っ」 「えっと、こんにちは」 ことりは美春に笑顔で挨拶している。 おれが心配されてることは別にして。 天枷美春。俺や音夢とは幼馴染だ。一個年下。音夢の事が大好きで、いつも音夢に抱きついてくる。 風紀委員をやっており、性格は"わんこ"と言われるほど元気すぎだが自分で落ち着けない。 山吹色の髪には緑色のバンダナをしていて、印象的。体は年に相応して小さいほう。 ちなみにバナナが大好きで、バナナに関することに鋭い。 動物、特に犬が大好きで、優しい心を持っている。 ・・・ついこの前まで、この美春は、事故で病院で永い眠りについていた。 それまでは、美春のロボットが学校に来ていたのだ。色々な事があった。 美春の親『天枷教授』はロボットに関する研究を行っていて、美春はそのモデルだった。 美春のロボットは電池切れでもう動かなくなった。 その時側に居た俺は、まるで本物の美春が死んでしまったかのように見えた。 でも本物の美春は今こうして元気だ。これで良かったのかもしれない。 ・・・今のさくらは、かつての美春と同じ状況なのだ。 「朝倉くん?」 心配そうに俺を見つめる彼女の名は、白川ことり。隣のクラスの生徒だ。 実はことりは、俺の担任の先生・暦先生の義理の妹だ。音夢と同じく白河家に引き取られて、何不自由ない生活を送ってきた。 紅いロングストレートの髪に、船員のような帽子を被っているのが印象的。 音楽コンクールに出場するほどの歌声をもち、尚且つ頭脳明晰。顔も美人で、スタイルもよく、 人の心が読めるかのような気遣いと、運動神経、友好的な性格と、誰もが憧れ、弱点らしい弱点が外から見当たらない。 俺には特に友好的で心を許しているみたいで、心の弱さを見せてくることもあるけど。 この風見学園のアイドルで、ここでは彼女を知らない人は非国民と言われるほどだ。 だから初見でも美春はことりの事を知っているのだ。 美春も可愛いが、風紀委員で朝の校門前で挨拶をしているとはいえ有名ではないので、ことりは彼女の事を知らない。 「ああ・・・、俺は大丈夫だ。えっと、こいつは俺の幼馴染で、妹の音夢と風紀委員やってる一個年下の天枷美春。  朝挨拶してるの見た事あるだろ?後、いけないことやってると、美春だけに見張られるぞ」 「朝倉くん、面白いね」 「朝倉先輩っ、私の名前を冗談で遊びながら初めての人に紹介しないで下さいよ〜」 「悪い悪い」 途中まで一緒に歩くことになった。