-------------------------- ひ と と き -------------------------- 汐が生まれて、俺と渚は幸せな生活を送っていた。 そして日々育成に忙しい、毎日の合間に起きた出来事の日・・・。 プルルルル・・・プルルルル・・・ ガチャッ 「はい、岡崎です」 なんの変哲も無い平和な日に、ウチの電話が鳴る。 その電話を渚が取った。 「朋也くん朋也くん」 「なんだ渚、俺は今、汐に夢中だ」 ある昼、俺は汐を寝かせていた。 「芽衣ちゃん、芽衣ちゃんですっ」 「あ?」 「芽衣ちゃんですよっ、春原さんの妹さんのっ」 「なに・・・」 「ほら、出てあげてください」 「なんだどうしたんだ・・・」 何故芽衣ちゃんが?と言う感じで渋々その子機を取る。 「はい、代わりましたぁ」 めんどくせぇ、と言うような返事をする。 『岡崎さんですかっ?』 「おう、岡崎さんだぞ」 『ははっ、変わってませんね』 「俺は俺だ」 『そうですねっ』 「それで、どうしたんだ?俺の家に電話かけてくるなんて・・・  春原の馬鹿がなんかやらかしたのか?  つかなんで俺んちの番号知ってんの?」 『えーと、ですね、順を追って説明するとですね・・・  と言うか、春原の馬鹿って、私も春原なんですけど』 「ああ、悪い悪い」 向こうから、ははっと笑い声が聞こえてきた。 『いいです。えっと、今度の連休そちらの方に遊びに行きたいと思いますっ  番号を知ってるのは、お兄ちゃんの名簿を見て古河さんの家に電話して尋ねたからです』 「ああ、早苗さんね・・・つか、最初なんて言った?」 『遊びに行きますっ』 「なんで俺?」 『知ってる人だからです』 「・・・」 どうせ、都会に来たいだけだろう。うちの近くは都会と言うほどではないのだが。 もう何も言うまい。 「わかったわかった、好きにしてくれ」 『それでですね・・・』 それから日程でいつ頃行くとか伝えて、談笑した後電話を切った。 「芽衣ちゃんなんて言ってましたか?」 「今度の連休遊びに来るってさ」 「わぁっ、久しぶりに芽衣ちゃんとも遊びたいですっ」 「ああ、遊ぶがいいさ」 「朋也くんも来ますよねっ」 「なんで俺・・・」 と言う事で、俺は今駅前で待ってる。 渚も汐を連れて一緒に来ればいいのに、楽しみたいとか言ってたくせに 俺一人で楽しんでらっしゃいとか言って・・・ あいつは嫉妬っつーんはないからな。 俺なんかを本当に良い人だと思ってくれてるみたいだから 他の人にも好かれるのは当たり前だと、自分の夫が誇れて嬉しいと思ってるらしい。 「なんでそんなにやにやしてるんですか?  あ、もしかして私が来るの楽しみにしてました?」 「そりゃぁ俺が渚の誇れる夫だからさ・・・  って、うおっ!?」 「うお、じゃないですよ〜」 「魚」 「さかな、でもないですっ」 「じゃぁ行こうか」 「ヘンなとこは、お兄ちゃんと一緒で昔から変わってないですねっ」 ・・・ 俺は春原と同じなのか・・・ 「さようなら、芽衣ちゃん」 「ま、待ってくださいよっ、まだ会ったばかりです」 「冗談だ」 春原芽衣。俺の高校時代の悪友・春原陽平の妹。今はもう高校生だ。 堕落の春原とは違い、かなりしっかり者だ。堕落前の春原には慕っていたらしい。 俺の仕事の先輩・芳野祐介さんのミュージシャン時代のファンだ。 地元が田舎なので、都会のものが大好きな、元気な女の子である。 まぁそう言うわけで、2人で遊びにお出かけ、と言うわけだ。 ありきたりの商店街を歩いているだけだが、 隣の芽衣ちゃんはウィンドウショッピングを楽しんでいる。 日も高くなり小腹が空いたので、近くのファーストフード店で済ますことにした。 「とても楽しいです、岡崎さんっ」 「そりゃ良かった・・・ところで芽衣ちゃん、彼氏とか居るの」 ぶっ! 「あ、すみません・・・突拍子もなかったので・・・」 「いや、いいけど」 「ボーイフレンドはたくさん居ますけど、彼氏ってほどは居ませんね」 「じゃぁ、春原の言ってた馬鹿をやれる友達は?」 「良い友達ならたくさん居ますよっ」 っつーか、芽衣ちゃんはしっかりしてるから、馬鹿をやったりはしなさそうだな。 男友達ともフェアな感じが想像できる。 ずー・・・ そう思いながらジュースを飲んでいた。 「岡崎さんみたいな人が彼氏だったら良かったのになぁ・・・」 ぶっ! 「岡崎さん、今のわざとですよね」 「本気で悪かった」 見破られては余計に罪悪感だ。 「面白かったからいいです」 「いや、でも今のはマジで驚いたぞ、でも残念ながらもう先客が居るからな」 「渚さんですよね、とても可愛い方ですっ」 「ああ、でも、芽衣ちゃんも可愛いし、しっかりしてるから魅力あるだろ」 「そうかなぁ・・・」 と話している最中、新しい客が店に入ってきて・・・ 「あ、岡崎くん・・・」 「ん?」 「どうしました?」 俺が振り返って芽衣ちゃんが見ると・・・ 「お、お前ら・・・」 「あ、朋也さん」 「朋也くんっ」 藤林椋、宮沢有紀寧、一ノ瀬ことみ。 「意外な組み合わせだな・・・」 「朋也さん、デートですかっ」 有紀寧が気さくに話しかけてくる。 「違うよ、お前ら隣に来いよ」 隣の机を引っ付けて呼び寄せる。 「朋也くんと一緒」 そう言ってことみが引っ付けた机の横に座る。 芽衣ちゃんが向かい側で、その隣が藤林、俺の隣が有紀寧でその隣がことみだ。 「春原の妹の芽衣ちゃんだよ」 「春原・・・春原さんて、あの・・・?」 藤林が訊いてきた。そうだよ、とジュースを飲みながら心で返事。 「ああ、春原さんのですねっ」 ちょっと遠慮がちに話しかける藤林と、気さくに話しかける有紀寧、 ちょっとどこか浮いたことみと、台詞に特徴があるのでわかりやすい。 「初めましてっ、春原芽衣と言いますっ  今日は、こちらの方に遊びに来ましたっ」 「初めまして、こんにちは、一ノ瀬ことみです。ひらがな3つでことみ。  呼ぶときはことみちゃん。趣味は読書です。良かったら友達になってください」 出た、ことみの必殺の挨拶だ。これまだ覚えてたのか。つかこれで友達増やしてたのか? 髪は小学生のような髪留めで両端を結いでいる。高校時代は模試で常に10位以内と言う天才。 「はいっ」 芽衣ちゃんは嬉しそうに返事をしていた。 「私の名前は、草冠にキバと、ころもで芽衣ですっ 呼ぶ時は、芽衣とか芽衣ちゃんですっ  趣味は、ウィンドウショッピングですね〜」 芽衣ちゃんは自分の事や今日見てきた服などの事を楽しそうに話す。 「私の名前は、有る無いの有るに、風紀の紀に、丁寧の寧で、ゆきねです。  呼ぶ時は宮沢とか有紀寧とか普通ですよっ。  趣味はことみちゃんと同じ、読書ですよ」 薄黄土色の長髪に優しそうな目。高校時代は忘れられた資料室に入り浸りだった。 何でも受け入れる許容と包容力を持ち、居る人を安らげる。 そいやことみと有紀寧は場所は違えども図書館、資料室と読書するのは変わらないよな。 「わ、私の名前は、木辺に東京の京で、りょうです・・・  呼ぶ時は、藤林とか椋ちゃんとか・・・  趣味は、トランプ占いです」 薄紫色の髪はショートで、右の髪にリボンを結いでいる。 長髪で左にリボンを結いでいる双子の姉の杏とはそれも性格も逆だ。 高校時代は委員長をしていたが、大人しくてあまり目立ったりはしなかった。 みんな、思い思いに自己紹介をしている。 するとみんなの視線が俺に集まってきた。 「え?俺?」 「岡崎さんも自己紹介しましょうっ」 「だってこの中で俺を知らない奴いないじゃん」 「朋也さんの自己紹介みたいです」 有紀寧が楽しそうに言ってきた。 「仕方ないな・・・あー、俺、岡崎朋也。月2個に、なりで朋也だ。  どうとでも呼んでくれ。趣味は渚」 「なんですか最後のっ」 芽衣ちゃんが楽しそうに笑っていた。 「最近会ってなかったからわからなかったけど、お前らどうして一緒に居んの?」 「え、えっと、同じ大学に進学してまして・・・」 藤林が言う。遠慮がちに言うもののはっきり言うので、内面は結構、姉の杏と似ているかもしれない。 「なるほど、大学ね・・・みんな何したいんだ?」 「私とことみちゃんは、それを探しに大学に進みましたよ」 「藤林は・・・?」 「え、えっと・・・医療関係に・・・」 恥ずかしそうに頬を赤らめて言う。 「ええーっ、それじゃ椋さん、頭いいんですねっ」 芽衣ちゃんが驚いて藤林を見ながら言う。 「が、頑張ってます・・・」 「椋さんは頭いいですね〜、私は全然ダメです」 「有紀寧ちゃんも頭いいんだよ」 ことみが言う。つーかお前ら全員頭がいい。 それからは有紀寧が資料室の本や漫画の話をしたり、 ことみが世界のことや医療関係、勉強の事を語ったり 芽衣ちゃんが地元のことや春原、俺の事を語ったり(やめてくれ)、 藤林がトランプ占いを披露したりした。つか店の中でトランプは止した方がいいと思うぞ。 「今日、岡崎くんは男の人たちに囲まれます」 なんか、気持ち悪い台詞が・・・。 「有紀寧、男友達引き連れているのか?」 「はい?」 よくわからない様子だった。 あ、でもそう言えば、藤林の占いは逆の結果が当たるんだよな・・・。 つー事は女に囲まれるのか・・・。 って言うか今囲まれてんじゃん。 「じゃぁ俺たちそろそろ行くな」 「皆さん、またですっ」 「芽衣ちゃん、また今度」 「また来て下さいねっ」 「また会いましょう」 芽衣ちゃん、ことみ、有紀寧、藤林の順に挨拶する。 なんか相当長い時間店に居た気がするぞ。 そろそろ日が傾きかけてきた。古河パンに行って見ると・・・ 「あ、公子先生」 「はいっ、ってもう先生じゃないんですけどね」 「そんな事ないですよ、公子先生は永遠に先生です」 「あ・・・」 芽衣ちゃんが先生を見て自己紹介の機会を窺っているようだ。 公子先生は薄金色のショートヘアーで、凄く優しい人。 黒い服に、白の長いスカートだった。 古河パンには、早苗さんが公子先生と話していて、側には風子が居た。 「朋也さん、こんにちはっ」 「はい、こんにちは、早苗さん」 渚の母。女学生のように若くて、公子先生と同じく優しい。 いつもエプロンをかけて、パン屋の店番や家で学習塾を営んでいる。 「今日は、芽衣ちゃんとデートですねっ」 まぁ、端から見ればそうなのか。 「えっと、早苗さんお久しぶりですっ  いつかは、兄が失礼を致しましたっ」 そう言って頭をぺこっと下げる。なんてしっかりしてるんだ。 それに比べてあいつは、本当に早苗さんに失礼しまくりだったぞ。 「いえいえ、楽しかったですよっ」 でも早苗さんは笑って応えた。 「可愛い女の子ですねっ」 公子先生が芽衣ちゃんを見た。 「初めまして、春原芽衣と言いますっ  今日は、田舎からこちらの方へ遊びに来ましたっ」 そう言って公子先生にも頭を下げる芽衣ちゃん。 「公子さんはな、渚が高校一年生だった時の担任の先生で、美術やってたんだぞ」 「今は先生辞めてますけどねっ」 「・・・」 隣には風子が公子先生の背中に隠れてその様子を見ていた。 「ほら、ふぅちゃん」 「えっと、伊吹風子です。昨日は銀色のプラスチックに埃がついてしまって右手の血とトイレg」 「先生、こいつ、何言ってんすか」 「ほら、ふぅちゃん、分けわかんない恥ずかしいこと言ってお姉ちゃんを困らせないのっ」 「風子、お姉ちゃんを困らせてますか」 「困りまくりです・・・って、ふぅちゃんの口調が移っちゃった」 黒い長髪を持つ大人しい風子。 風子は背が小さくて、小動物のような感じ。懐くのも人によって極端だ。言う事もちょっと変わってたりする。 「ふぅちゃん、とても可愛いですねっ」 そう言って芽衣ちゃんは風子に抱きついた。 つか、風子の方が何個も年上なのに芽衣ちゃんの方がお姉ちゃんに見えるぞ。しっかりしろ風子! 「あ・・・これ・・・」 芽衣ちゃんが左手の包帯に気付いた。つか、さっき右手とか言ってたが左手か。 「気にしないでクダサイ、風子のアクセサリーです」 風子がヘンな口調で言う。 「こいつ彫刻が大好きで、でも不器用だからミスってばっかなんだよ」 そう俺がフォローして芽衣ちゃんに説明した。 「風子のお姉ちゃんの結婚式、祝ってくださいっ」 そう言って風子は星型の・・・じゃなくて正確にはヒトデの彫刻を芽衣ちゃんに渡した。 「って私の結婚式はもう終わったでしょ」 「わぁっ、可愛いっ 公子先生、結婚おめでとうございました!」 「ありがとうございます」 でも公子先生は嬉しそうに微笑んでいた。 「つか、あの時、結婚式を学校で行えたのも幸村のおかげだよな」 「そうですね・・・幸村先生は、私の大恩ある先生でした」 「呼んだかの」 「うわっ!」 すると隣に幸村がいた。 幸村俊夫。白い髭に優しそうな細いたれ目。背中は曲がって杖をついている。 「あっ、ご無沙汰してます」 公子先生と早苗さんが挨拶する。 「つか、何の脈略もなく出てくるなよ!」 「ただの散歩じゃったのに・・・そうかの・・・」 そう言って寂しそうに去っていこうとする。 「待て待て」 「なんじゃ、呼んだり待てと言ったり落ち着きのないやつじゃな」 「いや、あんたのおかげで公子先生の結婚式できたって感謝してんだよ」 「ふむ・・・」 「あと、あんたのおかげで俺や春原の馬鹿、渚が救われたよ」 「ふむ、わしも生きた甲斐があったかの」 細い目をより一層細くして、満足していたようだった。 それからは、芽衣ちゃん、風子、早苗さんが抱き合ってじゃれあったり、 公子さんと幸村が俺や芳野さんの事を話したりして、 俺はその光景を楽しんでいた。 すると時刻は夕刻、辺りは夕焼けだった。 「あ、もうこんな時間だ・・・もう帰らないと終電になっちゃうっ」 芽衣ちゃんが言う。ちなみにここから一番近い駅の終電はまだまだだが 芽衣ちゃんの家は遠いので、乗り継ぎの時間で今からでもギリギリかもしれないという事だ。 「じゃぁこれでお開きだな」 「私もそろそろ夕食の支度をしないといけませんねっ」 「うちもですっ」 早苗さんと公子先生が言う。つか、2人って多分年が10くらい離れているはずだよな・・・。 早苗さん若すぎ・・・あんたなにもんだ・・・。 「風子、ハンバーグが食べたいです」 「はいはいわかりました。  それじゃぁ幸村先生、古川さん、芽衣ちゃん、それに朋也さん、  また会いましょう」 「岡崎さん」 「おう、なんだ風子」 「次は絶対相撲取りで勝ちますっ」 「こらふうちゃん、またヘンなこといわな・・・」 公子先生は風子に言いながら遠ざかって行く時、こちらにもう一度頭を下げて去っていった。 「さて、わしも帰るかの」 「ああ、悪いな足止めさせて」 「どうせ散歩じゃからな」 「また何かあったら呼ぶな」 「好きにするがええ、この老骨がまだ役に立つならな・・・」 そう言って、背中を曲げて杖をついてゆっくりと夕焼けに溶け込んでいった・・・。 「と、いう事で芽衣ちゃんを駅まで送ってきます」 「はい、お願いしますねっ」 「つか、オッサンはどうしたんすか」 「多分、子供たちと野球でもして遊んでると思います」 あのオッサンは店番サボって何してやがんだよ。 「それじゃ、さようならっ」 「また来て下さいねっ」 駅まで送る最中、辺りは夕闇へと化していた。 芽衣ちゃんが今日は楽しかったとか言いながら腕にしがみ付いてくる。 春原が最近頑張っててまともになっていくのがかっこいいとか 昔の馬鹿みたいなのが見れなくて少し寂しいとか、そんな話だった。 駅前で電車が来るのを待って雑談していると、電車が着たのでお別れの時もやってきた。 「渚さんによろしくですっ それじゃぁっ!」 俺は手を振って、電車が見えなくなるまで見送っていた。 「本当、しっかりしてんな・・・」 春原が羨ましかった。 「ただいまー」 「あ、朋也くんおかえりなさいです」 「悪いな遅くなっちゃって。汐は?」 「今はゆっくり眠ってます」 まだ一歳にも満たない我が娘は、綺麗なリズムで寝息を湛えていた。 それから渚や汐と夕食を食べて、今日は早めに寝た。 寝るとき、俺は天井を見て思った。 今は楽な暮らしじゃないかもしれない・・・。でも、苦でもない。 渚と汐が居ればどんな事でも頑張れる。 渚と共に頑張ってきたこの思い出の家で、汐を幸せに育てて行こう。 俺は明日を夢見て眠りにおちていった。 ============================================================ ついでに全キャラ出しました 即行で書いて、話を分けたくなかったのでちょーっと長いですけど 暖かい目で見てくれると嬉しいのです(ぉ written in 2005.4