『恨みと奇跡』 祐一の前の町で男友達だった男の女の子友達の女の子のペットの鳥が見たことのない男の1人の男友達・・・ つまり、祐一から全然関係ない男子生徒だ。 彼は祐一が北の街に引っ越してから通う学校の一年生だった。 ある時、彼は学校帰りに友人たちと商店街を歩いていると、友人たちは帰っていった。 彼1人商店街を歩いていると、見たことのある顔を見かけた。 あれ?確かあの人は3年生の・・・。 倉田佐裕理さんだ。 彼女のことはちょっとした噂で知られているのだ。 彼女は、アクセサリーなどが売られている女の子っぽい店から、人をかぎ分け出てきたところだった。 「ごめんなさいっ、・・・あっ」 どすんっ。 人をかぎわけ出るために前を向いていなかったため、彼女は彼とぶつかってしまった。 「あっ、すみませんっ」 「ああ、いえいえこちらこそ」 「本当にごめんなさいっ、それではっ」 そそくさと行く彼女に、ちょっと近づいて見たいと彼は思った。 「あ、あのっ!」 「? はい?」 彼女は首だけを振り返り、髪がなびいていた。 良かったら、隣いいですか? そんなことは言いにくかった。彼女は比較的綺麗な方だし、断られるに決まっている。 「いえ、ごめんなさい、なんでもないです」 彼は呼び止めたことを謝った。 「? よかったら、隣いかがですか?」 「えっ?」 思いがけない言葉だった。 彼女は笑顔でこちらに寄ってくると、自然と彼の隣に来た。 「い、いや、あの僕は・・・」 「どうしたんですか?」 ちょっと照れくさい。比較的綺麗な人が、知らない彼に向かって無邪気で友好的なのだから。 「いや、どんなもの買ってるのかなって気になっただけですよ」 「あはは、好奇心旺盛ですねっ。なんてことはないですよっ、ちょっとしたお買い物です」 彼がそのちょっとしたものとは何なのかを知りたいと言うことをわかって彼女は言っているのだろうか。 全く知らない人同士の2人が、緊張することなく普通に話している。 彼の方は緊張していたかもしれないが、彼はあまり緊張しない方だった。 他愛ない話の中商店街を進んでいると、彼の見知った友人に、おーっ、と声が聞こえたりした。 彼の彼女でも何でもないのは当たり前だが、周りから見るともてはやしたくなるものらしい。 しかし緊張しない彼は、やあ、とか、ああ、とか過ぎさっていくだけで煽りには乗らない。 「人気者ですねっ」 誰のおかげでしょう。冗談はさすがに言えなかった。2つも先輩だしちょっと有名だし。 もう少し歩いていると、長い金髪を横に結わえた少女がふらふらと歩いている。 彼女の名前は沢渡真琴。 「大丈夫ですかっ?」 佐裕理が真琴に近づいて声をかけて見た。 「えっ・・・?」 真琴は見知らぬ人に声をかけられびっくりしているようだ。まぁそれはそうだ。 「あぅー・・・お腹空いた・・・」 「お菓子持ってるんですよっ、よかったら一緒にいかがですかっ」 彼は思った。この人は遠慮と言うものを知らないんだろうか、それとも。 見知らぬ人に愛想良く声をかけられるというのはすばらしいと思う。 「えっ、でも・・・」 やはりと言うか、普通の反応が真琴から返ってきた。見知らぬ人に親切にされても、何だか怖い。 「大丈夫ですよ、毒とか入ってないですから」 いや、そういう意味じゃないと思います、佐裕理先輩。 「あぅー・・・」 「皆さんで一緒に食べるときっとおいしいですよ」 人の事情はお構いなしと言うか、マイペースというか。でもこういう形ならいいと思う。 彼は佐裕理のすごさに自分の中で彼女に対する尊敬の意図を感じた。 少し街から離れた丘までやってきた。街の様子が見渡せる。 ものみの丘。 「僕、小さい頃ここでキャッチボールして遊んだり、動物にお菓子あげてた事とかあるんですよ」 彼は言った。佐裕理が相手でなければ、自分から話出すこともなかっただろう。 「そうなんですかーっ。佐裕理はあまり外で遊んだことはないんです」 意外ですね、と彼はそう言い、佐裕理を挟んで向こうの真琴はただだまーって佐裕理からもらった お菓子を、動物のように食べている。 「そんなにお腹空いてたんだ・・・ねぇ君なんて名前?」 「私の名前は沢渡真琴・・・」 「真琴さんですか」 「でもそれ以外は何も覚えてないの。これからどうすればいいかも・・・」 「記憶・・・喪失でしょうか?」 ぽつりと佐裕理が言った。 「・・・」 真琴は沈黙で答える。記憶を喪失すると言うか、最初から記憶はなかったのだから喪失とは言わない、 と言うことは本人でさえわからぬ事だったからだ。 「それは・・・」 辛いね、という言葉でなく、そう言う意味の言葉が彼の頭の中で響いた。 「大丈夫ですよっ、いつか記憶が戻ります」 暗い沈黙を光で照らすように佐裕理が少し大きめの声で言った。 「そうだといいんだけどな〜・・・」 当の本人はやはり不安そう。 「ただ、何かがすごくむかつく・・・そんな気がする」 「・・・。」 ちりん。 「・・・っ?」 真琴は音の鳴った方向を向いた。 「え、あ、これですね」 音の正体は佐裕理さんが持っていた鈴だった。 「あ、さっきこれを買ってたんですか」 「ばれちゃいましたね、あはは。可愛いので一つ買ってみましたっ」 佐裕理が笑顔で言う。 「・・・なんだか、この音を何度も訊いていた事があるような気がする」 「えっ」 彼と佐裕理さんは同時に驚いた。真琴が、記憶を取り戻したのだろうか。 「でも、やっぱわかんないや・・・」 はっきりとは思い出せないらしい。 「大丈夫ですっ、記憶はきっと戻りますっ。例え、昔の思い出がどんな辛かったことだとしても、 思い出さないほうが不安だと思いますっ・・・」 佐裕理の顔が少し翳ったような気がしたのは気のせいだろうか? 彼から見て佐裕理は笑顔の印象しかないので、それ以外が意外に見えた。 「うん、ありがとう」 無理やりのようでも優しく包み込むような説得力は、真琴を素直にさせた。 「もう日が低いですね」 彼がぽつんと言う。 「もうそろそろ帰りましょうか〜っ」 佐裕理はそこではたと気付いた。 「・・・」 真琴には帰る場所がわからない。 「・・・・・・」 「あの・・・もしよかったら佐裕理の家で泊まりませんか?お父様もきっと許して下さいますよ」 「え、いいよ・・・私は」 真琴は少し怖がっていたのか遠慮した。 それを察知したのか、佐裕理もあまり積極的に言い出せなくなってしまったのだ。 「そう・・・ですか・・・それではこれからどうするんですかっ・・・?」 「わからない・・・何か思い出すまでここに・・・」 「でもこんなところで寝たら風邪引くぞ」 彼は言った。いくら知らない人でもこれだけ付き合ってはいさようなら、後は知らないと言えるような 人間ではなかった。 「・・・もう一度暖かい布団で寝たいな・・・でも私、ここで生まれてきたような気がする」 そんなバカな。 もしそうだったら奇跡だ。 彼はそう思った・・・そんなバカな事があり得る話を知らないために。 佐裕理はただただ黙って訊いていた。 信じているのか、信じていないのかは彼から見てわからなかった。 「それでは、佐裕理はそろそろ門限が近いので、帰りますね・・・」 「僕も、今日は帰ります、どうもでした、佐裕理先輩」 「えっ、どうして佐裕理の名前をっ?」 「さっきから何度も自分で言ってるじゃないですか・・・それに学校ではちょっと有名ですよ」 「恥ずかしいですーっ、色々な悪口訊いているでしょう?」 はいともいいえとも言えなかった。実際、訊く噂はあまりよくないように聞こえていたが、 今日実際話をしてみてそれはみんなのただの偏見だとわかった。 「真琴さんはどうするんですかっ?」 「私は・・・ここにいる」 佐裕理が心配すると、真琴はじっと座って街を見ていた。辺りは夕焼けから夕闇に変わろうとしている。 北の街の日は短い。そうですか・・・と佐裕理は言って、風邪に気をつけて下さいねと声をかけた。 彼も、佐裕理と同じように、風邪には気をつけたほうがいいよと一言かけて、二人で丘を降りた。 「今日は楽しかったですねっ」 色々あったけどね、タメ口では話づらいと彼は思ったため、口には出せなかった。 「それでは今日はありがとうございました〜っ」 「え、いや、礼を言うのはこっちの方ですよ」 「どうしてですか?」 それはさすがに何となく言いづらい。そんな事を訊かれたら自分でもどうしてかわからなくなってきそうだ。 「それでは、佐裕理はこっちなので」 「あ、僕はこっちです」 「おやすみなさい」 「おやすみなさい」 ・・・。 学校で訊いていた噂とは全然違うような気がした。 学校では、悪有名と言われている川澄舞の親友で変なお嬢様だと言われていた。 お嬢様と言うのは確かにそんな風な感じはある。変という部分も・・・人並み以上に人懐っこいと言う 部分では変わっているとも言えなくもないが、学校の子たちが言うような悪口っぽい感じではなかった。 何の変哲もない日常に、ちょっとした出来事の記憶が入った一日だった。 その後は彼は佐裕理や真琴とは縁もなく、佐裕理の事は学校で蚊帳の外から見ている感じだったし、 真琴とはあれから会ってないしどうしてるかもわからない。ただただ無事を祈るばかりだ。 やがて相沢祐一と言う2年生の先輩が転校してきて、あの川澄舞や倉田佐裕理さんと一緒に居る姿を何度か見かけた。 掃除をしていると、校門であの真琴が誰かを待っているように立っている。無事だったようだ。 真琴が誰かを迎えて喜んでいたように見える。そのままその人と去っていったが、あれは相沢祐一さん じゃなかったろうか。転校してきていきなり顔が広いなんてすごいなと彼は思った。 その横で、同じく窓を通して校門を悲しい目で見る一人の女の子が居たと思ったのは気のせいだったろうか。 彼は佐裕理と真琴と一度関わりあいながら彼女たちの事情を知ることもなく、3年の卒業式を普通に 迎えた。 佐裕理先輩はこれから進学するのか、どうするんだろうな。 あの日の記憶喪失だとか言ってた子はどうなったんだろうな。 ちょっと気になったが、すぐ気にならなくなった。 日常が日常で居られることこそが幸せだ。変化のないのも寂しいが、平和だと思う。 彼はそう過ごしていく。 その時読んだ本には、ものみの丘をモチーフにした昔話が語られていた。 実在の話と言うことも露にされずに・・・。 ============================================================================== 彼女らは他人から見られるとどういった見解を持たれるのか、と思い、1人の男子生徒を中心に書きました。 本当は真琴と佐裕理を中心にもっと話の展開を作りたかったんですが・・・。 男と佐裕理が出会った所で始まると言うのと、真琴が出てくるのは祐一と出会うまえの時と言う事で 話の展開ができなくなってしまいました。(汗 後は適当です。;; 舞と佐裕理の話とかはありますが、真琴と佐裕理など会わない2人を中心に描かれる世界を見てみたいな と思って書きました。(無理でした) シリアスにもお笑いにも属さぬ駄作ですが、それでも良いと思ってくれれば光栄です。 それではーっ。m(_ _)m by redford 2004.