――――――――――――― 大 切 な 人 ――――――――――――― 春原と勝平を連れて古河パンを訪ねた。 「らっしゃい。っててめぇか・・・」 渚の実父。俺の義父に当たる。 紅の髪に、口にはいつもタバコ。でも、汐の前では絶対しない。 不良がそのまま大人になった雰囲気があるが、誰からも好かれる。 「ただいま、お義父さん」 「ぐぁぁぁーーー!!」 「ぐぉぉぉーーー!!」 俺もオッサンも、お互いのそう言う柔らかい雰囲気に免疫がないらしい。 「ほれ、このオッサンがお前の憧れるだろう存在だ」 悔しいが、オッサンは漢らしい。とても漢らしいと思う。 勝平は顔を赤らめてオッサンを見つめている。 「な、なんだぁコイツは」 オッサンは多少驚いて勝平を見ている。 「オイ、小娘、俺に興味があんのか」 「え、いやっ、あのっ・・・」 「お前中々見る目があるじゃねぇか、よし、早苗のパンをタダでやろう」 結局そう来る不良店員。って言うかあんたもコイツの可愛い顔に騙されてんじゃん! 「それと俺の秘蔵のエロ本付だ、どうだ喜べ」 しかも女と思ってるやつにエロ本やんなよ!! 「あ、て、てめぇは早苗を口説いてたやつじゃねぇか・・・」 オッサンは春原の姿を見つけてそう言う。 「ひぃぃぃ・・・岡崎」 他人のフリ他人のフリ。 「ねぇ岡崎・・・」 春原の首根っこがオッサンにつかまれる。 「僕、この町に何しに来たんですかね・・・ 教えて下さい・・・ あれっ 教えてくれませんかネェーーーーーーーーーーーーー!?!?!」 大丈夫、呼んだ俺も全然わかんないから。 「・・・」 春原を公園に連れて行ったオッサンを勝平はずっと見ていた。 その目はうるうるしていて星のように輝いていた。 「イイ・・・」 うーん、イマイチ、オッサンの漢らしい部分を上手く見せれなかったようだが 勝平本人が惚れているので良しとしよう。 公園に行くと、ボコられた春原とボコしたオッサンが居た。 「おうっ、てめぇかっ、名は何て言うんだ」 「勝平です・・・」 「男らしい名前だな、頑張れよっ」 オッサンは上機嫌で勝平の頭を子供のように撫でた。 オッサン、そいつ俺より一個年上の男ッスよ。 勘違いしたままオッサンは去っていった。 上機嫌なのは勝平に惚れられたのと、春原をボコったからだろう。 簡単に機嫌よくなる辺り、子供っぽかった。 側には、ボコ顔の春原が居た。 「岡崎・・・僕、生きてる・・・?」 「ああ、お前は無敵だ」 「そ、そうか、やった・・・ぜ・・・」 いや、やられてるから。 「それにしても、春原クンはダサいよね」 痛恨の一撃だった。 「じゃぁボクもうそろそろ帰るよ」 時刻は夕方だった。勝平も、太陽の夕暮れに紅く染められている。 「ああ、椋によろしくな」 「・・・椋さんは最初は朋也クンが好きだったんだよ・・・  ボクも朋也くんが友達として好き・・・」 「何か言ったか?」 「ううんっ、何でもないっ、またねっ」 こっちに振り返りながら走っていった。転んで起き上がったら、てへっと笑って再び走っていった。 つーか足速っ!そうかストライカーだったもんな・・・。 「おーい春原ー」 「僕、オイシイ・・・?」 「ああ、全然」 「まぁ・・・でも楽しかったよ」 「え?」 意外な言葉が。 「なんかさ・・・向こうに帰ってから、真面目なことしかしてなくてさ・・・  馬鹿なことできる雰囲気じゃないから仕方ないけど・・・  こっちに戻ってきて、色んな事思い出して楽しかったよ」 ・・・。 俺は知らないけど、こいつも頑張ってるんだよな。 そう・・・春原は俺より強いのかもしれない。 俺なんか、渚が居なかったら本当に今頃生きていなかったかもしれない。 けど、こいつは、夢を失ったまま、就職難と言われてる中、高卒で普通に就職して、 今もその仕事を続けていて・・・ 俺にこんな事されても、友達で居続けてくれて、どんな時も駆けつけてきてくれて、 どんな時も一緒に馬鹿をやっていてくれた。 渚の卒業式だって、わざわざこっちに出向いてきて仕事のクビをかけてまで来てくれたんだ。 深く思えば、色んな事を助けてきてくれた。 友として、その今までの出来事に感謝したかった。 「お、おいおい、岡崎!?」 思わず涙が出た。 「春原、今までありがとうな・・・良かったら、これからも親友で居てくれ」 「・・・お前、そんな事言い出すなんて熱でもあんの?  てゆーか僕たちずっと親友じゃん!」 ああ・・・ 「ああ・・・そうだな・・・お前はこれからも俺の下僕だよな」 「同等の立場で居てくれよ!」 そう、街は変わっても、俺たちは成長しても、決して根本は変わらなかった。 「じゃぁもうそろそろ帰るよ、電車に乗り遅れるといけないから」 「むしろいっその事乗り遅れて駅寝しろ」 「柊ちゃんじゃないんだからそんな事しねぇよ!  つか明日会社遅刻してクビになるよ」 「なって俺の側に居続けろ」 「僕、最高に友情深いですねぇ!」 「じゃぁな、またいつか」 「ああ、芽衣ちゃんによろしくな」 「そうそう、来る時、芽衣がお前のことたくさん訊くように言ってたよ」 「え?そう言えば芽衣ちゃん、もう大学生か?」 「そうだな、今でもお前の事忘れずに、好きみたいだぜ。  お前だったら、妹やっても良かったと思ったよ」 それだけ言って春原も帰って、俺一人になった。 本当に、今日だけでも色々な人に出会ってきた。 今日会ってない人もいたけど、会った事のある思い出深い人ともたくさん出会っていた。 この街の人間との出会いを意識し始めたのは、渚に会ってから。 そう、渚に会ってから、全てがいい方向に向き始めた。 渚・・・ もう太陽は沈み、辺りは暗くなっていた。 「ただいま」 「お帰りなさい、朋也くん」 「パパ、おかえりっ」 とたとたっと汐が足に駆けつけてくる。 「ああ、汐、ただいま」 「えへへ」 渚が笑ってた。 「何がおかしいんだよ」 「だって朋也くん、普段は絶対そんな顔しないのに、汐ちゃんの前だけは顔が綻んでます」 「お前の前でも綻ぶぞ」 「ありがとうございますっ」 そう、渚と汐の元気な顔を見れれば、それだけで、本当にそれだけでいい・・・。 「パパっ、今から散歩に行きたい」 「え、なに?今から?外はもう暗いぞ」 「朋也くん、行ってきて下さい」 「つーかお前も注意しろよ、夜中は外に出るなってさ」 「汐ちゃんたら、ずっと朋也くんと散歩に行きたがってたんです」 「何も今日じゃなくてもいいだろ」 「今行きたい」 汐が俺の顔を見つめてきた。うわっ、この顔に俺は耐えられる術を知らない。 「よし、任せろ。渚も行くぞ」 「私は大丈夫です、家でお留守番してます」 「一人にするのは心配だなぁ。よし、今日だけは早苗さんのところで寝ろ」 「えっ」 「たまには家族水入らずでな」 「朋也くんも家族です、後、汐ちゃんもです」 「まぁそうだけどな」 「そうです、だから皆で寝ます」 「ってウチはどうすんだよ」 「貴重品持って鍵かけておきます、管理人さんにも一言言っておきます」 「一日空けるくらいで大げさな・・・それは省いていいだろう」 「うーん・・・そうですね・・・」 「つーか料理途中じゃん」 「明日すぐご飯食べれるようにしておきます」 「んじゃそう言うことで」 「はいっ」 「行くぞ、汐」 「おーっ」 太陽の無い夜は寒かった。代わりに月が闇を明るく照らしている。 古河家まで渚を送ってから、汐と夜の散歩に出かけた。 公園や学校、保育園、駅、今日歩いたところを往復するように汐と散歩した。 その小さい体は、元気一杯だった。その姿を見ているだけで、俺はどんな事も頑張れる気がした。 いつしか病院の場所まで来た。 オッサンが、渚の危機時に雨の中来たその森の中の一番大きな木の場所。 願いの叶う場所と言われたところだ。 そこへ来ると、汐が、奥に誰か居ると案内している。 「汐、誰か居るのか?」 だが辺りは真っ暗闇の夜中の森。 しかし中に、抜けた広さがありそこにぽっかり月の光が照らされ、神秘的だった。 そこには、天まで届きそうな大きな木・・・。 地面がはっきり見えるほど、月明かりは明るかった。 汐はそこに吸い込まれるように駆け寄っていった。 俺もそこに足を運ぶが何も無かった。 だが、汐は突然独り言を話し始めた。 いや違う、誰かと話しているんだ・・・。 それは、もう大人になった俺には見れないんだろう・・・ そう思った。  ――― キミの名前はなんて言うのっ? ―――  ――― 汐っ ―――  ――― ボクの名前は月宮あゆだよっ ―――  ――― 可愛い名前っ ―――  ――― うぐぅ ありがとうっ ―――  ――― こんなところで何をしているの? ―――  ――― ボク?ボクは、この街の願いを叶えているんだよ ―――  ――― 天の精霊?背中の翼は、空を飛べるの? ―――  ――― ううん、飛べないよ ―――  ――― どこから来たの? ―――  ――― 永遠の夢の世界から ―――  ――― どうやって? ―――  ――― この翼で ―――  ――― ? ―――  ――― キミのお父さんは、いい人だねっ ―――  ――― うんっ ―――  ――― どうか、この街の人たちが、いつまでも幸せで居れますように・・・ ――― -------------------------------------------------------------------------------------------- 見えない苦労、再会、切ない納得、馬鹿恥漢の続きです。 長くないこれ?(´Д`;)キャラたくさん出すと仕方ないよね しかし、男キャラでボケいっぱい出そうと思ったけど、 なんか話が上手く作れないね。泣きも笑いもダメじゃ。 その両方を見事にできるKeyってやばいんじゃないですかね? さらに、作品を通じて、色んな事を伝えられたり。凄いよ 特に勝平からは、生きることの大切さを、 渚からは、苦難を乗り越えていく事を、伝えられました クラナドサイコー! ではでは written in 2005.4