『烈度の崩壊』 零は朝早く目覚めた。 あれ、何でおれは烈度の部屋に・・・ そうか、一緒に寝たんだ。 あれ?烈度は? 探していると、烈度は別所で倒れていた。 零は無言で烈度をおんぶして運ぶと、リビングの椅子に掛けさせた。 零はただ黙って朝の準備をしているが、烈度はピクリとも動かない。 零は朝の準備を終え、ニュースを見るためにTVを付けた。 いつもと変わらないような様子でいつもの事をこなしているが もちろん平気な訳はなく、ただやらなければならない事はやっておく と言うような義務的な感じだった。 零は果てしなくぼ〜っとしていた。すると電話のベルが鳴る。 誰だ?こんな朝早くから。零は烈度をリビングに置いて自分はとりあえず 電話を取りに行った。 「はい、烈度ですが。」 ここは烈度家。零は居候だから電話の時は烈度の名字を名乗る。 「おれだ、西園寺だ。」 西園寺?一体こんな朝早くからなんのようだろう。 「西園寺か。どうした?こんな朝っぱらから。」 零は不思議そうに尋ねてみた。すると彷徨は答え出す。 「昨日、お前は烈度の様子がおかしいって行ってきただろ? お前が去ってから中学のやつらに話してみたら、栗太のやつが 烈度を見たって・・・。」 「それは一体どう言う事だ?」 「それはおれにもわからんけど・・・とりあえず連絡しておいた。」 「わかった。貴重な情報ありがとう。またな。」 「ああ・・・。」 ガチャン。 ・・・? 烈度のやつ、彷徨の学校へ何しに? とにかく、烈度に聞いてみよう! 急いでリビングに戻って烈度に聞いてみた。 「おい!烈度!お前、1週間前くらいから彷徨の中学校に行っていたそうだな! 一体何しに行ってきたんだ!?」 「ア〜・・・。」 駄目だ。話にならない。  ・ ・ ・ 零はとりあえず烈度を連れて学校へ行こうとする。 しかし烈度は急に方向を変え歩き出した。 壊れ始めてから初めて見る烈度の自主的な行動。 烈度の歩いている方向は彷徨の中学校がある方向。 電話で彷徨が言っていた事と何か関係あるに違いない。 零は烈度を行くがままにさせその後をついて行く。 30分もするとそこは平尾町。 もうそろそろ零の学校のベルも彷徨の学校のベルも鳴るはずだ。 時刻は8時半になった。 すると突然烈度の動きが極端に遅くなり、動いているのか動いていないのか わからない位の遅さで歩き始めた。 さすがの我慢強い零もこのじれったさに頭に来て烈度を運んでいこうとしたが いやに烈度が嫌がる。呆れてそのままにして置くと、また超のろのろスピードで 歩き始めた。もう止まっているのではないかと言うぐらいに。 零がぼ〜っとその様子を見つづけること1時間半。いい加減疲れてきた。 すると目の前が第四市立中学校だった。ここか? 烈度は何かを見つけ、今度はスーパースピードで勝手に校舎に入っていく。 おいおい・・・。 慌てて後を追いかけると一人の女子が一人の男子と戯れている。 烈度は女子に向かって一生懸命何かを言っている。 だがその女子はまるで無視するように、側に居た男子と一緒に校内へと入っていった。 しばらく烈度はその場に立ちすくんでいたが、急に叫び出した。 「ガアアアア――――――――!!!!!」 まずい!あの野郎何し出すかわからない! 案の定、烈度は校舎に入っていき、めちゃくちゃ暴れている。 下駄箱を放り投げたり、女子に掴み掛かったり、男子を殴り吹っ飛ばしたり。 「烈度っ!止めろっ!」 勢いが凄過ぎて、力が凄過ぎて止めれない。 こいつ!いつの間にこんなに力が!? すると第四市立中の先生が数人よりかかってきて烈度を取り押さえた。 「グアアア――――!!!何故ダ―――!!!」 意味不明なことを叫ぶ烈度を見る、さっきの女子が居た。 「何アイツ、キモーイ!!!」 そう言いながらさっきの男子に抱きついている。 「オ前カ― 私カラソイツヲ奪ッタノハ―」 すると烈度は数人の教師の取り押さえも訳もなく解き、 その男子に襲い掛かった。 「烈度!これ以上暴れることはおれが許さん!」 零が飛び入ってその中に割り込んだ。 すると烈度は大人しくなり、再び数人の教師に拘束される。 烈度はそのままどこかへ連行されて行った。 烈度のせいで怪我をしたものが少なからず居た。 無事だった野次もなんだなんだと言いながら引き返していく。 そんな中、零は例の女子に事情を聞いた。 「お前、あいつの何だったんだ?」 「は?何お前?関係ないでしょ?僕もあんなやつ知らないし。」 その女子は一人称、自分の事を『僕』と言った。珍しい。 「良いから話せ。」 まるで洗脳でもかけるかのように鋭い目付きに、その女子は事情を話し出した。 「昔、僕が苦しいほど大好きだった人・・・。」 「それで?」 「烈度より、この人の方が顔がかっこ良かったから、振った・・・。」 横を見ると、確かに烈度よりは顔は格好良さそうな男子が居た。 聞くと野球部のキャプテンらしい。身体つきも男らしい。 「それだけか?」 零はその女子に視線を戻して再び厳しい視線で言う。 「うん。」 「あいつは何て言っていた?」 「僕が好きだから戻ってきてほしいらしい・・・。」 「お前にその気はある?」 「ない。」 「なんで?」 「こっちの方がかっこ良いから・・・。」 零はもうこの時点で話すのが無駄だと悟った。 何も言わずにその場を後にする。 「何あいつ・・・意味不明。」 鼻で笑いながら零に唾を吐くようにして言った。 その後、零は校長室に向かった。 「大変申し訳ございません。」 深く頭を下げ、周りには数人の先生が居る。 「何者なんだね?あの子は。」 「はい。わたしが居候させてもらっている家の子で同級生で、 ここから少し行ったところの中学校に通っています。」 「それがどうしてうちの学校で暴れていったんだね?」 「それが、どうやら異性関係でかなり塞込んでいて、ストレスに耐え切れられなくなった のかと・・・。」 「あの子の家に居候しているならキミはそれを察知できたんじゃないかね?」 「すみません、さすがにテレパシーのようなことは無理で、そこまではわかり得ません でした。」 「ふむ・・・。とにかく、あの子は精神的にかなり不安定だ。しっかり更正させてもらう ため、しばらく年少に預けてもらえんかね?」 「え!?あいつそんなに酷い事したんですか!?」 「彼を見ただろう。その中で一際酷い怪我をしたうちの生徒が居てね。今病院で意識不明 だそうだ。」 「そんな・・・。」 「と言う訳で悪いが、引き取らせてもらうよ。今回のキミの過失はあの子に全部背負わせて 更正させてもらう。ではお疲れ様だ。」 突然の成り行きに、頭が上手く回らない零。 何だかわからない内に話が進められて行ってしまった。 この事を家に帰って烈度の母、つまり零の義母に話したら、母も混乱していた。 学校で恵と佳奈子にこの事を話したら、彼女らも吃驚していた。 今は、ただひたすら烈度が戻ってくることを信じるしかない。 烈度・・・おれはお前を、信じているぞ。 ===================================================================== written in 2003.11.07