『演劇大会その後』 演劇大会は・・・ 劇場をぐちゃぐちゃにしたけど内容が良かったと言う事で 2−1が優勝して終わったのである。 演劇後・・・ 「未夢ちゃん!西園寺くん!ルゥくん!ありがとう! 最高だった〜!もうしんでもいい〜♪」 「だ〜あっ☆」 綾が未夢の手をギュっと握って縦に振っている。 「ねえねえっ、最後はキスしたの〜未夢〜?」 ななみが嫌味のように言ってくる。 「ええっ、そ、そんな事聞きたいのっ!!」 「うん、未夢の口からはっきり聞きたい〜♪」 ななみもかなり意地悪だ。 「ダメだよ〜ななみちゃんプライベートだよ〜♪」 と綾は言葉では否定しつつも顔はニヤニヤほくそえんでいる。 「っ、・・・。」 「あれ?どうして黙っちゃうのかな〜まさか〜★★」 うっ・・・肯定もできない否定もできない! 彷徨助けて! 「未夢、帰るぞ。」 「あっ!そーだ!今日お部屋の掃除する予定だったんだ〜 またね〜綾ちゃんななみちゃん!!」 (彷徨サンキュー!) 未夢たちは逃げるようにして帰った。 「あの様子だと、絶対アレしたね♪」 「うん!したした!絶対した!そう言う事にしとこう!」 ななみも綾も人事だからって。 「そうですの・・・とうとうこの日がやってきてしまったんですのね・・・ 皆が寝ている間に二人だけの世界へ・・・ 未夢ちゃんと彷徨くんは一つ屋根の下で暮らす仲・・・ 帰ったら演劇の続きをやっちゃうのねェーーーー そんなの未夢ちゃんだけズルイですわあああーーーー!!!!!」 っとここでななみがクリスの肩をポンと叩いて言った。 「クリスちゃん〜いい加減嫉妬は止めなよ〜みっともないよ〜。」 「そうだよ〜。あれは誰がどう見ても未夢ちゃんと西園寺くんはお似合いだよ。 だから邪魔しちゃダメだよクリスちゃん〜。」 そう言われるとクリスは我に返り、今度は嘆き出した。 「そう・・・わたくしも気付いていましたの・・・実は・・・。 未夢ちゃんと彷徨くんはお似合いなだけじゃなくて、未夢ちゃんは彷徨くんが 好きで、彷徨くんも未夢ちゃんを好いていることが・・・。 お互いはいつも喧嘩しているけど、本当はとても想いあっていて両想いだと 言う事も・・・。 わたくしの入る間も余地も何もありませんのね・・・。」 そう言うとクリスは泣き走って帰っていった。 「・・・クリスちゃんには悪いけど、でも未夢たちから考えたらこっちとしては 応援してあげたいしね。」 「そうだよね〜。あ〜あ〜、私も演劇部で恋したいなあ〜。」 ななみも綾も未夢と彷徨の事をとても羨ましく思っていたのである。 一方未夢たち・・・ 「・・・。」 「・・・。」 ・・・しゃべれない。 恥ずかしくてどうしようもないの。 「だぁ?」 未夢に抱かれたルゥが不思議そうにママの未夢を見る。 「未夢・・・。」 「あっ!えっと、今日お買い物しなくてもいいんだよね!?」 「え?あ、ああ・・・。」 「あ〜良かった〜演劇終わって買い物だったら今度学校行けないくらい 疲れちゃうもんね〜!」 「未・・・。」 ワンワンワン!!! 突然、他の家の犬が吠え出した。 「・・・。」 彷徨も言う事を詰まらせてしまった。 「・・・。」 未夢も、普通ならどうしたのとか聞くだろうが さっきから視線を合わせようともしない。嫌だからじゃない。 合わせたくても合わせられない。 気まずいような良い雰囲気のような、微妙な空気の中、 『家族』は西園寺に着く。 「おかえりなさいませ〜っ!」 ワンニャー、かなりちゃっかりしている。演劇の時こっそり? と言うか堂々と舞台に出ていたのに。 「そういやお前、何演劇に出てんだよ・・・。」 「え、えっ、な、何のことですかっ。」 バレバレだっつーの。 「えっ!?ワンニャー演劇に居たの!?何だったの!?」 ・・・おいおい。 「あの鏡、もろワンニャーだったろ。気付かなかったのか?未夢。」 「えーそうだったの!全然気が付かなかった! そう言えば鏡しゃべってたような・・・よくバレなかったね。」 「観客席から『あれ凄いな、本当にしゃべってるみたいだ』とか途中で 聞こえてたけどな。小西はノリノリでナレーターやってたから気付かなかった って言うか。」 「す、すみません・・・・ルゥちゃまの身に何か起こってはと勝手に 鏡に変身して出てしまいました・・・。ペポはカバンの中で寝ていたので 大丈夫ですが。」 「まあ、ルゥには何も起こらなくとも演劇は最後はめちゃくちゃだったけどな・・・。」 「だーぁ☆」 「そう言えばラストは未夢さん彷徨さんキスしたんですか?」 こいつもかよ。 「さてね。」 「未夢さんは?」 「さ、さてーお部屋のお片づけしなくっちゃー!」 「あれ、肯定しませんが否定もしませんね・・・これは怪しいですねルゥちゃま〜♪」 「あーい☆」 「ペポ〜っ♪」 次の日、未夢と彷徨は一言も口を聞かなかった。 と言うと喧嘩しているみたいだが、喧嘩でも何でもなかった。 その日の授業後。 「未夢ちゃん、今日は西園寺くんとしゃべってるところ見ないけど、 喧嘩でもしたの?」 「えっ、そっ、そんなんじゃないよ〜。」 「じゃあ、何で?」 ・・・。 何でだろう? 無言で綾の元を後にした未夢は、彷徨と帰路につく。 だが会話は全くなく、帰ってきてご飯を食べるときも何も言わず。 「・・・だぁー?」 「ポポ〜・・・。」 ミルクをごくごく飲むルゥも、ご飯をパクパク食べるペポも、 二人の様子に不思議な感じがするのに気づいていた。 ワンニャーも、結局何を話せばいいのかわからずじまいで夕食が過ぎていったのである。 次の日も、学校では二人は何もしゃべらなかった。 この二人の間の静けさに、彼らを知っているクラスのものも沈黙。 しかし沈黙は意外な所から破れる。 「西園寺くーん。今日委員会だよー。」 彷徨と同じ委員の花小町栗太だ。 「あ・・・忘れてた。」 未夢はうつむいていたが彷徨のほうへ向く。 「未夢っ。」 「えっ?」 「おれ委員会だから、先に帰ってろよ。」 「何時ごろ終わるの?」 「あ、光月さん!こんばんは・・・ えと・・・今日は早く終わりますよっ!」 こんにちはの間違いだよ栗太くん。 「何時ぐらいに終わりそうだ?」 「ん〜・・・4時ぐらいかな。」 栗太がそう答えると未夢は言った。 「なら私教室で待ってるよ。」 「いいのか?悪いな。」 「ううん、別にいいよ、今日は帰っても暇だし。」 「未夢がそこまで言うなら付き合ってやるかー。」 するとその話を聞いていたななみが綾を連れて、帰ろうとしているところを戻ってきた。 「ななみちゃん!綾ちゃん!いいの?」 「今日はあたしは買い物も何もないし、綾も演劇終わったばっかりだからお休み なんだってさー。」 「流石の私も疲れたから〜。もう満足!」 プチみかんさんモード綾ちゃんは終了したみたいだ。 「うん、ありがとう。」 「じゃあ行ってくるからな。」 「うん、行ってらっしゃい。」 彷徨は委員会へ行った。 「・・・。」 相変わらず未夢は黙ったまま。 「・・・ま〜、何か沈黙してるけど、気持ちはわからないでもないけどさ。」 「えっ?」 ななみが口を開く。 「黙ってても、何も展開しないよ未夢ちゃん〜。」 「悩みがあるなら聞いてあげるからさ。プライベートなら遠慮するけどっ。」 ななみちゃんも綾ちゃんも、人事なのに心から私に味方してくれてるんだ。 未夢は少し安心したような気がした。 「西園寺くんの事、好きなんでしょ?」 こく。 未夢は黙ってうなずいた。 この時初めて、自分の素直な気持ちを友達にも打ち明けることができたのである。 「やっぱりぃ。」 「えっ?」 「未夢が真面目な顔して恋に悩んでるのにからかったら悪いでしょ〜。」 ななみがそう言った。綾を見ると、綾も「うんうん」とうなづいている。 「長かったねぇ〜ここまでの道のり。いや、近かったけど少し進むのに時間がかかった って言うか。」 「何か・・・何かね、急に彷徨と話せなくなっちゃった・・・。」 「それはそれでいいんじゃん?心に素直な証拠なんだから。」 「心に、素直・・・。」 「そうだよ。でも、いくら両想いでも言葉で伝えないと伝わらないよ、テレパシーなんて むつかしーんだから、 よっぽどのべたべたじゃなきゃ♪」 「べたべたって何・・・。」 綾が告白するようにアドバイスしてくれたのである。ななみはべたべたって言う言葉に苦笑。 将来未夢たちもべたべたになるかもしんないね〜っっ。 「・・・両想い?」 未夢は聞き直した。 「何?未夢。」 「どうして両想いだってわかるのっ?」 「そりゃあ・・・ねえ、外から見てれば、『私たち両想いだよ〜』って言わんばかりに 見えるし・・・。」 「未夢ちゃんは鈍感だからね。でも自分のペースで気づいていけばいいよ、人それぞれ なんだし。」 そう言えば、彷徨、一度私の事を大切な人って言ってくれた。 あの時はよくわからなかったけど何となく嬉しかった。 今度は、私がちゃんと告白するんだ。 彷徨の前で、私の口で。 「未夢ー、待たせたな。」 彷徨が委員会から帰ってきた。 「早ーい!もう終わったの?」 「ああ、さっさと終わらせてきたんだよ。待たせちゃ悪いだろ?」 「さて、あたしたちはお邪魔虫になっちゃうから帰ろうか、綾。」 「そうだね〜せっかくのラブラブモードを汚しちゃ悪いしね〜。 じゃあまた明日!未夢ちゃん!」 「ちょっと・・・まあいいか、ありがとーななみちゃん綾ちゃん、また明日ー!」 「・・・さて、おれたちも帰るか。」 「・・・うん・・・。」 だが、相変わらず二人とも無言である。 何を話せばいいのか・・・話す事がないのか。 いつもドジしちゃって彷徨がムカツクからかいをするけど今はないし。 結局ななみたちのアドバイスどおりする事もできずに家に着く。 「おかえりなさい。」 「だーぁ☆パンパー!マンマー!」 「ペポー☆」 「ルゥくん、ワンニャー、ペポ、ただいま。」 ルゥとペポはまだ赤ちゃん。無邪気に出迎えてくれる。 ワンニャーも明るく出迎えてくれるが、さすがに作り笑顔のようになっていた。 無理もない、もうすぐ『分かれ』の時がやってくるのだから。 時は変わって夜。時刻は夜9時を過ぎる。 夕飯も風呂も済ませた彷徨は、一人廊下で月を見る。 暗い部屋でルゥとペポは眠りに付き、側にはワンニャー。 未夢は風呂から上がり廊下を歩いていると、彷徨を見つけた。 「何してるの?」 久しぶりに普通に話し掛ける未夢。 「お前を見てんだよ。」 未夢をちらっと見た後、月に視線を戻す。 闇に光る満月・・・。 「お前はおれを照らしてくれたんだ。」 「いきなりそんな事を言われても・・・。」 未夢は少し照れて、彷徨の側に自然と座る。 どうしてだろう、体が自然と彷徨の横に行きたくなるんだ。 安心できるから・・・。 「・・・。」 でもそれだけ心は素直。中々しゃべり出せないが、思い切って話し掛けてみる。 「あ、あのっ、彷徨っ・・・。」 「ん?」 振り返る彷徨。 だが何を話せばいいのか。 「えっと、・・・え、演劇の最後、ごめんね・・・。」 「・・・。」 彷徨は少し照れて向こうを向いてしまった。しばらくして月を見上げていった。 「あれはただの事故だろ。それにそれはおれの台詞だ。」 「・・・。」 思い切って話しても、後が続かない。 「え、・・・ちょ、ちょっと何・・・恥ずかしいってば。」 「お前の手ー、暖かいなー。」 彷徨は未夢の手をギュっと力強く掴んできた。 風呂上りの風で覚めた彷徨は、風呂上りで火照った未夢の手を掴んだ。 未夢の鼓動が聞こえる・・・。 危なっかしいけど、意思があって自ら動ける。ロボットじゃない。 「あっはは。冗談だよ。お前もいつまでもこんなところに居ると寒くなるぞ。」 いつも意地悪でいたずらなからかいをする彷徨。 でも、時にはすごく優しくて、力強い暖かさ・・・いつも見せるクールな表面の中には こんな暖かいあなたが居る・・・。 「ううん。彷徨と居るだけで暖かいからいい・・・。」 未夢は彷徨の手を強く握り返した。 「未夢・・・?」 「私ね。本当は気づいてたの・・・自分の気持ちにっ・・・ 私はね。彷徨。あなたが、あなたが、 好き だって・・・。」 涙を流しながら告白する未夢。 あなたを思うと切なくて、愛しくて心が苦しいの。 だから、思いっきり心のうちを開放してみたくなったんだ。 あなたは、私の気持ち受け止めてくれる・・・? 泣きながら顔を覆っている未夢に、彷徨は未夢にでこぴんをした。 「しょうがねえなあ。」 はあっとため息をつくと、未夢は覆っていた手を離した。 そして・・・ 「おれも。」 何・・・? よく聞こえなかったなっ・・・? 未夢は嬉しくて泣き崩れる。 月の光を探して彷徨う者。 太陽を見てまだ未ない夢。 彼らはやっとお互いを見つけることができたのである。 ===================================================================== written in 2003.08.29