『ガケの下で・・・』 「つ、疲れた・・・温泉まだ・・・?」 未夢は重い荷物を背負いながら山を登っていた。 「もうすぐだよっ!光月さんっ!」 「おっせーぞ!」 三太がまもなく到着することを伝えると、彷徨が未夢を待っていた。 「彷徨、元気そう・・・ちょっとおんぶして・・・。」 未夢はもうバテバテに疲れていた。それでまだ全然元気の彷徨におんぶしてほしいと言った。 「だめっ!」 彷徨は断固としてすぐ拒んだ。 「お前が来たいって言ったんだろ?自分でがんばれよ。」 (カチン!) 2日前・・・ 未夢は彷徨が三太と温泉に行く話を耳にした。 『温泉っ!?』 『そっ。今度の土日、三太と行ってくるから、土日はルゥのこと、頼むな。』 『いいなあっ!温泉っ!最近腰とか肩とか痛いし、手とかもガサガサだし、私もお湯に 浸かってゆっくりしたいな〜・・・。』 未夢が羨ましそうに言うと、ワンニャーがこう言った。 『行って来ればいいじゃないですかっ!』 『えっ?』 ワンニャーのその言葉に未夢は驚いた。 『大丈夫ですっ!家のこととルゥちゃまのことは、シッターペットの私がちゃんと責任持ち ますっ!ねー?ルゥちゃま〜。』 ワンニャーがルゥに言い寄ると、ルゥも真似して答えた。 『ね〜・・・。』 『ほらっ!ルゥちゃまもこう言ってますよ〜っ。皆さんで楽しんできて下さいっ。』 成り行きを見た彷徨はこう判断した。 『・・・ま、いいか。三太に言っとくよ。』 未夢とワンニャーはひしっと抱き合った。 『ワンニャー!』 『未夢さんっ!』 ―――――――――――――――――――――――――――――― 「お、重い・・・。こんな時やさしい男の子だったら、すっと荷物持ってくれるんだろう な〜・・・。」 未夢は荷物の重さに声を上げると、ちらっと彷徨の方を見ながら言った。 すると彷徨は未夢の荷物を見て、 「・・・こんなにお菓子持ってくるからだろ。太るぞ。」 と言った。 「なんですと〜!」 未夢はライオンのように怒った。 「光月さんっ、おれ、持とうか!?」 「ほんとっ!?じゃあよろしくね〜っ!」 三太の助けに未夢は喜んだ。 「うんっ!まかせて!・・・って重っ・・・!」 「単純なやつ・・・。」 彷徨は未夢の素直に喜んでいる顔を見てぼそっと言う。 それに気付いた未夢は心の中で叫んだ。 (べーっだ!単純でけっこー!女の子にやさしくしてもバチはあたんないわよーっ!) 「光月さん、着いたよっ!」 「ホント・・・!?どっと疲れた・・・温泉どこ・・・?」 目的地に到着したようだが温泉が見つからず、未夢は尋ねた。 「はいっ!」 と言うと、三太はスコップを取り出した。 「スコップ・・・?」 「ここ、どこを掘ってもお湯が湧き出てくるんだよ!」 「がーんっ!休みに来たのにっ!これじゃ疲れるだけじゃないっ!」 未夢は目的地に温泉が沸いていると思って来たのに、これから重労働をやることになるかと 思うとつい叫んだ。 「あのなあ、疲れても自分で掘るから気持ちいいんだろ。」 彷徨は地面を掘ってお湯を湧き出すことを楽しみにしていたようだ。彷徨に言われたことに 頭にきた未夢は、こう言った。 「むっか〜!私こっち掘るから、ぜ〜ったいこっち来ないでよっ!」 そういって未夢は一人奥の方に行ってしまった。 「光月さんっ!おれとこっちで掘らない!?」 「おれとお前はあっちで掘るぞ。」 三太が未夢を誘うと、彷徨が三太を引っ張って別の所に行った。 一方、未夢・・・。 「も〜!ぜったいおっきいの掘ってやるんだから〜!」 ガッ!っとスコップを地面に刺したが硬く、スコップにかけた足が、じ〜ん・・・、と 響いた。 掘っていくうちに、お湯が出てきたが、少ししか出ない・・・。そして今度は出すぎたりと 調子は良くないようだ。 「光月さ〜んっ、どう〜!?お湯は出た〜!?」 「なんとか・・・。・・・あっ!野生の猿だ!」 調子が出てきた未夢はそう答えながら三太の方を振り向くと、視界に入った野生の猿を 見つけて思わず声を出した。 「あっ!ちょっと!私のリュック!待ってー!持っていかないで〜!」 しかし猿はすばやく未夢の荷物を盗んで行った。 「・・・あ・・・。きゃあああーっ!!」 「・・・!?未夢っ!?どーしたっ!」 「えっ!?」 「・・・いたたたた・・・。」 荷物を持っていった猿を未夢は追いかけて、荷物は取り戻したのだが、勢い余って崖から 落ちてしまったのだ。 急に未夢の悲鳴が聞こえたので彷徨は未夢の方へ駆け、三太も何が起こったかという形相で 来た。 幸いな事に、草がクッションになってそれほど大きな怪我にはならなかったようだ。 「未夢っ!大丈夫かっ!?」 「彷徨っ。」 「こんなガケがあるなんて・・・7,8メートルはあるよなあ・・・!」 三太は予想外の地形に驚いて言った。 「いったっ!」 「!どうした、未夢っ!?」 「う、うでが・・・。」 腕を負傷した未夢は身動きが出来なかった。未夢を助けようと彷徨は崖を降りようとした。 「今助けに行く!待ってろ!」 「あぶねーよ!お前までケガしちまうだろっ!」 三太は、珍しく冷静を欠いた彷徨を説得して止めた。 「助けを呼んでくるから!2,3時間で戻ってくるから!無理するなよ〜っ・・・!」 そう言って三太は山を降りていった。 「・・・っ!」 未夢の様子をただ黙って見ているのかと思って、未夢の方を見ていた。 「いたたっ・・・!・・・っ!?彷徨っ!?」 彷徨は我慢できずに未夢の元へ、崖からズサササーッと凄まじい勢いで降りてきた。 「・・・ってぇー・・・!」 「何やってんの!?彷徨っ!大丈夫っ!?」 「見せてみろよ、ケガっ。」 彷徨は自分のことなど忘れて未夢の怪我の心配をした。 「えっ?い、いいよっ!これくらい、平気っ!」 「いいから見せてみろよっ!ほらっ!」 「平気だって・・・!・・・いったーいっ!」 彷徨は未夢が強情を張っていたことは予想していた。しかし思ったより怪我が重くないとみて ほっとした。 「・・・他に痛い所は?」 「・・・ない・・・。」 「打った所が腫れてるな。何か冷やすもの持ってこないと・・・待ってろ!」 彷徨は未夢の怪我が腕だけだと言うことを知ると、行動を起こした。 「・・・。」 未夢は彷徨が何かを求めて去っていく様子をただただ沈黙して見ていた。 しばらくして彷徨が未夢の元へ帰ってきた。手には何やら色々と握っている。 「ほらっ、とりあえず木で固定したから。あと、木の葉も濡らしてきたから、シップ代わり に。」 彷徨はどこかで手に入れてきたものをうまく使って未夢の怪我に応急処置を施した。 未夢は自分の腕を手当てしてくれている彷徨を見つめた。 「・・・。」 「・・・なんだよ?」 「っべ、別にっ!」 「そう。」 (・・・だって・・・さっきまでと、なんかちょっと、ちがうんだもん・・・。) 「・・・三太が来るまで、ここでじっとしていようぜ。」 「・・・うんっ・・・。」 「・・・。」 「・・・。」 そう言ってから沈黙が続いたが、思わぬ音がその沈黙を破った。 (ぐ〜っ!) 未夢のお腹から悲鳴が聞こえて来た。それを聞いた彷徨はキョトンとした様子で沈黙して未夢 を見た。 「・・・。」 「あっ!な、なんかお腹すいてきちゃったね!何か食べるっ!?色んなお菓子あるからっ!」 未夢はリュックの中から焦りながらお菓子を取り出しながら誤魔化した。 「・・・あっ、そうだこれこれ。」 未夢はあるスナック菓子を取り出した。 それを見た彷徨はそのスナック菓子の名前を見てぼそっと言う。 「・・・かぼちゃチップス・・・」 「そう、いまそういうのもあるんだよ。面白いよね〜・・・。」 (彷徨、かぼちゃ好きだって言うから、そういうのも買っておいたんだ・・・。) 「良かったら食べなよ。」 「ああ・・・。」 そう言って彷徨は一つそれを手にとって口に入れた。 「(パリッ!)・・・。」 「・・・どうっ!?」 未夢は彷徨の機嫌の様子を伺いながら言った。 「・・・うまい・・・。 ちょーど腹が減ってたんだ・・・サンキュ・・・。」 「うんっ・・・。」 (やだっ!なにドキドキしてるのよっ!私っ!)」 未夢は自分が何かに緊張している事を心の中で必死に誤魔化そうとしていた。 「おい・・・未夢・・・。」 「あっ!他にもあるよっ!チョコとかオセロとか、ゲームも!」 「未夢・・・これじゃ気分転換にならなかったな・・・。こういう温泉だって、ちゃんと説明 しとけばよかったな・・・。」 「・・・っでもでもっ!私が付いて来たいって言ったんだしっ!」 「・・・でも、お前がうれしそうな顔をしてるのを見て・・・、それに最近、ドタバタしてた し、たまには中学生らしく 自分たちで何かやるのもいいと思ってさ・・・。」 (・・・私のこと・・・ちゃんと考えててくれてたんだ・・・。) 「でもっ!私だってたくさんわがまま言ってたかもーっ・・・。」 「・・・まっ、それはあるけどな。」 「あっ、そうですか・・・!」 ぴょんっ! そんな雰囲気の中、草むらから何か飛び出してきた。 「あっ!うさぎだっ!おいでっ、おいでっ。ねえ、このかぼちゃチップス、食べるかなっ?」 未夢はうさぎを誘い、お菓子を食べさせようとした。 くんくん・・・ぱりっ・・・。 「食べたっ!彷徨っ、これ、うさぎだっ!」 「なんだそれ。」 「うふふっ!」 穏やかな雰囲気の中、時間は刻々と過ぎていき、夜が近づいてきた・・・。 ばさばさっ・・・! 「・・・きゃあっ!何今のっ!?」 「蝙蝠だろ。」 「びっくりした〜・・・。あっ!見てっ!お月様がきれーっ。そういえば・・・なんか・・・ 暗くなって来たね〜・・・。」 未夢は彷徨を見ながら言い、そして月を見た。 (でも、ゼンゼン、怖くないや・・・。) 「・・・っ!彷徨っ!それっ!どうしたのっ!?」 そう思いながら視線を彷徨の方に戻すと、彷徨の足から血が出ている。 「ああ、これか?さっき落ちてきた時ちょっとすりむいただけだ。なめときゃ治る。」 「だめっ!私のよりひどいじゃないっ!見せてっ!」 「いててっ・・・!おい、心配すんなよ。平気だって。」 「平気じゃないっ!」 彷徨は平気な様子を見せるが、未夢は自分の事以上に彷徨を心配した。 「手当てするもの集めてくるからっ!そこでじっとしててっ!」 「あっ、おいっ!・・・」 彷徨は未夢を見つめながらこう言った。 「・・・おおげさなヤツ・・・。」 一方、未夢は暗い森の中に入っていた。 「・・・何も出ませんように・・・!」 ばさばさばさ・・・っ! 「・・・きゃあ〜っ!」 何かが通り過ぎるたびに驚きながら、未夢は必死に何か怪我の手当てになるものが無いか 探した。 「よいしょ、よいしょ、これでいいかなっ、材料っ。木と塗れた木の葉っ。」 暗い中無事に戻ってきた未夢は彷徨の元へ駆け寄った。 「・・・はいっ!足出して!彷徨っ!」 服が草だらけになっている未夢の姿に彷徨は驚いて言った。 「・・・、お前、どこのジャングル行ってきたんだよ。」 「い、いいのっ・・・! はいっ!これで応急処置でき・・・ た・・・・・・。」 「――――――っ」 「――――――っ」 (ふぃっ) (ぷぃっ) 目が合った二人は顔をそらした。     (・・・どーしたんだろ・・・私・・・。      顔が・・・あつい・・・     今までこんなことなかったのに・・・ ・・・あれ・・・? ・・・ほんとに・・・なかった・・・?) 「・・・〜ぃ、・・・―〜っぃ・・・おーいっ!」 どこからかともなく呼ぶ声が聞こえてきた。 「三太―っ!未夢っ、助かったぞ!」 「えっ?」 「おじさんからロープ借りてきたんだ!今から下ろすから、しっかり持って上がってこい よーっ!」 「わかったーっ!未夢、おれが先に行く。お前も後から上がってこいよ。」 「・・・。」 「・・・?おい、未夢っ。」 「・・・えっ!?な、何っ!?」 「お前も後から上がってこいよな。」 「あっ、うん・・・。」 「・・・よっ!・・・おーいっ!未夢っ!後はお前だぞーっ!」 「うんーっ!」 「・・・よいしょ、よいしょ・・・、きゃっ・・・。」 未夢は必死で崖を登っている。 「もう少しだっ!」 「光月さんっ、がんばれっ!」 「うんっ・・・。」 「・・・つかまれっ!」 「・・・っ!うっ、うんっ・・・。」 「よっ!・・・はぁ〜・・・。なんとか無事に上がってこれたな。 サンキュー!三太っ。」 「いや〜、これもおじさんのおかげだよっ!」 「おじさん、どうもありがとうございました。」 「いやいや、無事で良かった!気を付けて帰りなよ。」 「「ただいまー。」」 「おかえりなさ・・・ぎょっ!未夢さんっ!彷徨さんっ! どーしたんですかっ!?その汚れた服っ!?」 「えへへ・・・ちょっとね・・・。」 「・・・へーっ、そんなことがあったんですかー・・・。」 「そーなの!もう私のドジで・・・。」 「ほんと。こいつのドジで・・・。」 「何よー!もうちょっとフォローしてくれてもいいでしょ!?」 「ほんとのことなんだからしかたねーだろ。」 「それで、2人きりの時は何をしてたんですか?」 「な、何っ・・・って・・・別に・・・ねえ。」 「ああ。」 「怪しい。(じろっ!)」 「ふあー・・・、おれ、もう寝る・・・。」 「ルゥくーんっ!絵本読んであげよーかっ?」 「未夢さん、怪しいですー・・・。」 「・・・。     今日は1日ありがと・・・。お休みなさい・・・。」 「・・・・・・。」