『それぞれの思い』 未夢、彷徨、ペポ、ルゥ、ワンニャーの5人は モモンランドへ向かうことにした。 ジェットコースターやお化け屋敷。 ピザを食べたりジュースを飲んだり。 間接は・・・もちろんなし〜。 最後は5人でメリーゴーランドに乗ろうとした。 「あ、定員は二人までです〜。」 「じゃあ、わたしはルゥちゃまとペポと乗りますね。 ルゥちゃまとペポをあわせても軽いですから、大丈夫でしょう。」 そう言ってワンニャーは先に乗っていってしまった。 「お、おい・・・。」 (え。って事は、彷徨と二人っきり〜!?) 「・・・じ、じゃあ乗るか・・・。」 「う、うん・・・。」 二人も同じ観覧車の個室に同席する。 しばらくして、観覧車が動き始めた。 「わぁー見て見て!夕日がすごく綺麗!今日は真っ赤っかだね!」 未夢はいつもどおり元気を取り戻した。さらに夕日の美しさに少し興奮気味。 「どうしたの彷徨?夕日見ないの?綺麗だよ?」 下を見て俯いている彷徨。すると未夢のほうを真っ直ぐな視線で見つめる。 「えっ。」 未夢は急に振り向かれたので少しびっくりして恥ずかしそうに視線をそらした。 「未夢・・・おれ・・・。」 (え・・・。) 「おれ、母さんが死んだときすごく悲しかった・・・。」 妄想とは裏腹に悲しい過去の話。 「彷徨のお母さん・・・?」 「おれがまだ小さかった頃。でもしっかり覚えてる。」 「そうなんだ・・・。」 「その時、母さんはこう言ってくれたんだ。」 「何て?」 彷徨は少し間をおいて再びしゃべりだした。 「『もし私が彷徨の側から離れても、決して悲しまないで。心はいつも彷徨の側にあるのよ』 ってな・・・。」 未夢は、一瞬、共感的なものを感じた。ルゥが居なくなるときにも同じ事が 言えるのではないか・・・。 「お前がペポやルゥやワンニャーや、そしておれとその記憶の数々を忘れない限り、 おれたちはいつでもお前の側に居るからな。」 「・・・うん。」 冷たく悲しい過去に未来への希望と暖かさ。 未夢は何だか心がすごく暖まるような気がした。 「隣のルゥくん、かなりはしゃいでるね。」 「いつもは観覧車には乗ってなかったんだってさ。」 ルゥとワンニャーの乗る隣を見る未夢たち。 下を見てみるとそこには世にも恐ろしい姿が。 く、く、く、 クリスちゃんだ〜〜〜〜〜!!!!! 「どうして、どうして未夢ちゃんと彷徨くんが観覧車で一緒の個室に入っているの・・・? 彷徨『未夢、おれ・・・。』 未夢『えっ・・・。(もしかしてこれって告白っ・・・?)』 そして二人は小さな部屋の中でメラメラの炎を出しながら愛に飢えて何か やっちゃってんのね〜!!!!」 そう言うとクリスは観覧車の方へ走っていき観覧車を根こそぎ持ち上げ、 叩き落した。ドガーン☆ 「いててて・・・っ・・・!?ルゥ!!」 「いたた・・・あ!ルゥくん!」 「未夢さん!彷徨さん!」 「ぅえ〜んマンマー!パンパぁー!!」 「ペポぉー!」 未夢と彷徨は無事だったがワンニャーとルゥとペポは部屋に閉じ込められた形となって しまった。 「ルゥ!」 「わ、わたくしったら何て事を・・・!」 混乱して泣き出してしまうクリス。 「あ、ルゥくんと、え〜と親戚のお兄さんは大丈夫だよ、クリスちゃん。」 未夢はクリスを落ち着かせようと宥めた。 (わたしも、ルゥくんが居なくなることを突然伝えられたときは、 こんな感じだったんだな・・・そういえば私彷徨に抱きついてたっけっ。) 「彷徨さんっ!わたしは大丈夫ですから、ルゥちゃまとペポをっ・・・!」 彷徨はルゥとワンニャーとペポの救出へ向かった。ペポはルゥにずっと抱かれていたから 大丈夫だった。 彷徨はワンニャーからルゥを受け取ると、次はワンニャーを助けようとした。 「私なら、ヒラヒラなものになって抜け出せます!」 「駄目だ!今は花小町が居る、見られたら大変だ。」 クリスは、心配そうな目つきでワンニャーたちを見ている。 今にも観覧車が崩れ落ちそうだ。 「クリスちゃん!観覧車を直して!」 「わ、わたくしにはそんな怪力はありませんわ!」 あの、クリスちゃんがやったんですけど。 「ワンニャー早く手を伸ばせ!くずれかかってるぞ!」 「だ、駄目ですっ・・・足が抜けませんっ!」 「お願いクリスちゃん!観覧車を直して!」 「でもっ・・・!」 「直したら彷徨の事何でも教えてあげるから!」 「それはホントですのー☆こんな観覧車片手で十分じゃー!どおりゃあー!」 多重人格って言うか、何なんだろうなこいつは。 彷徨はワンニャーも無事に助け出した。 「す、すみません、家族のひとときのお邪魔をしてしました・・・。」 「もういいよ、皆無事だったんだし・・・。」 「本当に申し訳ありませんでした!」 そう言うとクリスは走り去っていった。 「ワンニャー大丈夫か?」 「はい。足だけガムに変身させてました。」 「お前ってそんな器用なのか・・・。」 「えっへん!これでもオット星では有能な変身能力を持ってるほうなんですよー!」 「あっはは・・・はぁ・・・何だかお腹空いてきたなーお菓子とか食べたのに ゴタゴタあると体力の消耗も早いよねー。」 「じゃあ帰るか。ワンニャーごちそう頼むな。」 「はい!任せてくださいっ!」 「あーい☆」 「ペポー☆」 おいしい夕食を終えた家族。その後は下り坂の夜。 もうすぐ・・・もうすぐルゥくんたちを別れなきゃならない。 その時になって、私は笑顔で見送れるのかな・・・? 未夢はやはり不安でいっぱいだった。 次の日の朝、ニュースを見てみると何やら騒然となっている。 「アメリカへと発った宇宙飛行士の光月未来さんが、来週にも宇宙へと 飛び立つ模様です!無事の成功を祈るばかりです!」 新聞を見ても、日本人宇宙飛行士光月未来とうとう宇宙へ、の大文字。 「ママ、とうとう夢が叶うんだね・・・おめでとう。」 住んでいるところは今は離れている。でも、この空の下に居ることは 間違いない。未夢は、アメリカから遠い日本で、静かなお祝いの言葉を投げた。 「未夢・・・。」 「彷徨。どうしたの?」 彷徨が真面目な顔をしている。 「親父からまた手紙で連絡があった・・・再来週くらいに帰ってくるって。」 「そう・・・。」 「未夢さん、彷徨さん・・・。」 「ワンニャー・・・。」 ワンニャーも、彷徨と同じように現れた。二人ともワンニャーが何を言うか 予測はついていた。 「救助船から新たなメッセージです。来週辺りには地球の近くに移動できると・・・。」 「・・・。」 「未夢、今のおれたちは、目の前の演劇を成功させることだ。 こうなったらもう後には引けない。今やることを一生懸命やらなきゃ。 そうだろ?」 ・・・今やりたいこと・・・。 そうだよね・・・悔やんでてもしょうがない。 でも、今やりたいことややらなきゃならない事よりも、あなたに伝えたいことがあるの。 気付くの遅かったかもしれないけど、最近やっと気付いたんだ、自分の本当の気持ちに。 それはね、彷徨・・・。 未夢はある一つの決心を強く持っていた。 「未夢ちゃーんっ!!」 学校に着くと多くの友達が未夢に押しかけて来た。 「未夢ちゃんのお母さん、宇宙船に乗るんだってっ!?すごいじゃない!!」 「うん、そうだね。ママ凄いよ。」 「でも、そうなるって事は未夢ちゃんも元の学校に戻るから転校になっちゃうんだよね!?」 「うん・・・そだね・・・。」 「・・・!」 未夢が転校・・・。 そうだ・・・そうなるんだよな・・・ルゥが帰ることばっかり頭に浮かんでて、 未夢を宥めること考えてて、未夢自身がどうなるか考えてなかった。 未夢・・・。 何回この名を呼んだんだろうな――― 授業後、いつも通り演劇の練習をした。 そこには一生懸命セリフを覚える未夢が居た。 あの悲しそうな顔の未夢ではない。 それから3日、来る日も来る日も自分と相手と家族の事を考える者たち。 そして、演劇前日。 「はーい!今日は演劇のリハーサルです!明日はとうとう演劇大会! 皆さん今までよく頑張って来てくれました!小西綾感動です! こうなったらもう後には引けません、絶対皆で優勝を勝ち取りましょーうっ!」 「おー!!!」 クラスから歓声が。皆もやる気満々だった。やけくそでハイテンションなものたち、 緊張でテンション低いものたち。 未夢と言えば、両方だった。 「よーし、こうなったらやけくそよ!何でもかかってきなさい!おーほっほっほ! ・・・でも、やっぱり緊張する〜!」 未夢は緊張でハイテンションになっていた。 「そう言えば、最後のお姫様が召使に背中を叩かれて復活するところやって なかったよねー、あれやらなくていいから!」 「ええー!なんで!?」 「ラストってのは練習すると余計緊張しちゃってプレッシャーになるのよ〜。 ぶっつけ本番の方が雰囲気出るじゃない!」 「で、でもセリフとかわかんないし・・・。」 「そんなのアドリブで万事OKぇ〜〜〜♪」 綾はやけくそでもなく緊張でもなく、もとよりハイテンションだった。 「ちょっと彷徨、何とか言ってよっ。」 「まあ頑張るんだな。」 「何よっ、彷徨なんかバーカっ。」 「悔しかったら頑張ってセリフ作れよっ。」 二人とも舌を出して子供みたいに喧嘩している。 周りにとっては良い迷惑と言うか見ものと言うか。 もちろん、本人たちが気付いていればそんな場で喧嘩なんかしない。 最後のリハーサルは、ラストシーン以外全部順調にクリアした。 「最後は未夢ちゃんと西園寺くんが家で練習してきてねー♪」 「え?ラストは彷徨が、棺に乗った私を召使に乗せてるだけじゃ・・・。」 「のーんのーん♪そんな訳ないでしょー☆」 うわ〜綾ちゃんフルパワーだ〜みかんさん以上かも。 ・・・え? って事は・・・まさか・・・ うぇぇえぇぇぇ〜〜〜〜!?!?! 皆の前でそんな事をやる事になったら・・・ 「ちょっと綾ちゃん!それはないでしょそれは!」 「え〜?だってだってえへへぇ〜♪」 だ、駄目だ、話にならない。 「あ、それからお姫様が生まれた時のシーンのためにルゥくんも連れてきて〜♪」 「え!?そんな急にって、ちょっと彷徨も何か言いなさいよ!」 隣で話を聞いていた彷徨。だが無言で教室を出て行く。 「ちょ・・・何でこうなるのよーーー!!!」 「ちょっと彷徨!何で何も言い返さなかったの!」 「小西は1年の頃からすげー演劇っ子でな・・・お前もわかったろ、 あの様子じゃ多分何話しても無駄だろう。」 彷徨、無駄ってわかってることには手出さないんだな。結構知的じゃん。 じゃなくて! 「ち、ちょっと!私は彷徨とキスなんかごめんだわよ!!」 「お、おれだって未夢なんてっ・・・。」 だが、彷徨の語尾は力を無くしていた。 「・・・彷徨?」 「ほら、ぐだぐだしょうがねえ事言ってないでさっさと帰って飯食って風呂入って 寝るぞっ。」 彷徨も意地っ張りだな・・・私も何で嘘付いちゃったんだろうね・・・。 って言うか、ルゥくんの事はどうしよう、もうどーにでもなっちゃえ〜! めくるめく未来 泣く事に負けないくらい あなたを信じて 本当は ギュっとあなたを抱きしめていたい 虹になる日まで 忘れないで 大事な台詞 今伝えたいんだ あなたが好きだと きっと 夢を守るから――・・・ 皆それぞれの思いを持ちつつ、演劇当日の朝が明けた。 ===================================================================== written in 2003.08.15