『壊れかけたHITOMI』 未夢や彷徨たちの元を後にした烈度たちは、 新しい中学三年生の生活を送っていた。 市立第四中学校で二年の終了式を迎えてから、 また四人して転校していたのである。 しかし、烈度がある日を境に突然様子が急変した・・・。 「オハヨウ!ミンナ!ヾ(@ー☆lllノ」 中学校へ登校中に、烈度は恵と佳奈子と会った。 「ちょ!どうしたの!?」 恵が驚いて聞くと、零が答える。 「こいつ、家じゃ最近コレなんだ・・・理解できない事が起こると すぐ壊れるんだよな・・・。」 「そう言えば昔からそうだったよね・・・でも一体何があったの?」 「それはおれも聞いてない。何があったんだか・・・。」 「わたし私渡しワタシは・・・〜・・・」 「ん!?おい烈度!大丈夫か?」 「わたしはLLLいtp  kkmtrmMPg^〜 x運NIンONNNい+~{おにNnオンイoiりpmンririりいっりいr!!!!! 索引物ガでーたべーす二アリマセン。えらーデス。」 「おいお前ぇ〜・・・烈度!何ふざけてんだよ。いい加減にしろよ。ここんとこ一週間も 訳わかんねえ事であばれやがって・・・。」 「グググ・・・。」 「ねえ・・・今はそっとしておこうよ・・・?」 佳奈子が心配そうに烈度を見て、零に提案した。 「家で一週間も壊れてて、今までは学校に行く時はおれが落ち着かせてたんだけど、 もう今回ばかりはこいつは立ち直れないかもな。」 「そんな・・・。」 恵が口を抑えて言った。 今の烈度は、完全に、故障したコンピュータのようだった・・・。 零は烈度を連れて佳奈子たちと共に教室に入った。 するといきなり烈度が叫び出した。 「ニンジントハ恐ロシイ ス。 「はぁ!?訳わかんねえ事をここにまで言ってんじゃねえ・・・恥かしいだろ。」 「ニンゲン・・・。」 「ねえ?もう、放っておこうよ?」 恵が呆れた様に言い出した。 「そうはいかない。こいつとは今までどんな時も一緒に助け合ってきたんだ。 おれがこいつを助けれないなら、こいつを助けれる人を探すまでだ。」 「闇無・・・。」 恵が心配そうな目つきで言った。 「グググ・・・。」 「おい・・・保健室行くか・・・?」 「今日も授業です。」 「え?いきなり敬語かよ?直った?」 烈度は丁寧語が癖だから、零は一瞬烈度が直ったかと思ったが違った。 「コンナ気分デ授業ガデキル訳ガナイ!」 「・・・。」 一同は、言葉を失った。 「かうんせりんぐハ何処ダー!」 「・・・悪い、恵、佳奈子、手を貸してくれ。」 「え?どうするの?」 「今はこいつは駄目だ。とりあえず保健室へ連れて行く。」 「うん・・・わかった・・・。」 零たちは烈度を保健室へ連れて行った。 その後、零たちは無事に授業を受けていた。 しかし、烈度は保健室の先生に迷惑をかけまくっている事となった。 その保健室に居る烈度を、体育の授業の時に見た零たちは、心底悲しくなっていた事だろう。 (おい・・・烈度・・・今まで、一体何があったんだ・・・? それは、今まで人生を共にしてきたおれにも打ち明けられない事だったのか・・・?) 零は、烈度と離れた事が無いため、苦労を共にしてきたため烈度の苦しみを助ける事が出来ず 零もまた苦しんでいた・・・。 「とりあえず、心当たりを探すしかないな。」 零は、烈度が何故このようになったのか、学校の友人たちに聞いてみる事にした。 キーンコーンカーンコーン・・・ 放課後になった ・・・ 「なあ、烈度が最近変なんだが、あいつに何か変わった事なかったか?」 話している相手は、烈度や零と小さい頃から友人の鷹見英一。 今は野球部で、天才的存在となっている。 「さあな。最近部活忙しかったからな。そう言えば最近あいつとしゃべってないな。 何かあったのか?」 「ああ・・・ちょっとな・・・でも心当たり無いんならしょうがない。またな。」 「そうか。悪いな。あいつが直ったら知らせてくれよ。」 「ああ。」 (あいつも知らなかったのか・・・烈度がこうなったの・・・。) でも、零も英一が知らない事は予想していた。何故なら同居している自分でさえ 知らなかったのだから。 「あいつらにも聞いてみよう。あんまり会いたくないが・・・。」 零は、ある別の中学校を訪問した。 その直前の正門につくと、やっぱり来るんじゃなかったと言わんばかりの光景が零の前に 現れた。 「ちょっとー!どけとは何よどけとは!」 「お前が動く場所を無くすからだろうがー!」 「二人とも両想いになったのにいい加減にやめるっチュー!」 「おい、てめえら・・・。」 「お!零!久しぶりだな!」 「ちょっと風馬!聞いてるの・・・!?ってあ、零!久しぶりー!」 零が会いに来たのは風馬 翔と神童みーな。そしてムササビと言うかモモンガと言うか、 よくわからないプカプカ浮いている不思議な生物、モモン・ガー。 この生物は特定の人間にしか見えていないようだ。 「なあ、烈度の事、知ってるだろ?何か最近あいつの事聞かなかったか?」 「いんやぁ、最近はコイツの相手してるんで、あいつの事は知らないね。」 「おいおい・・・。」 神童は複雑な気持ちになった。自分に夢中になってくれているのと、遊ばれているのかと 言うのと、そして烈度の事さえ目に入っていない事で。 「そうか・・・おいモモン!お前もあいつの事知らないか?向こうに遊びに行ってたり しないよな?」 「烈度の事は知らないっチュー。最近警察の仕事が忙しいんだっチュー。 それに、ワープの道具を渡してないから勝手にこっちの世界に来れないっチュー。」 「そうか・・・。」 「おいみーな。烈度のやつ、見たか?」 「ううん。見てないよ・・・烈度に何かあったの・・・?」 「いや、何でもない。いいんだ・・・悪い邪魔したな、またな・・・。」 「・・・???」 零は、悪気そうに謝って去っていった。 風馬たちは、その光景を実に不思議そうに彼の背中を見送った・・・。 (風馬たちも知らないのか・・・。あいつ、一体どこで何をやったらああなるんだ・・・? なあ烈度・・・。) 零は心の中で烈度に問いかけた。 零がとぼとぼ道を歩いていると、いきなりひょうきんな漫画家とアシスタントに出会った。 「あれー?零くんじゃないのー。久しぶりねー!」 「あ〜みかん先生!やっと見つけたよ!早く仕事終わらせなきゃ駄目だって〜!」 「うわあっ!みかんさんじゃないですか!一体何処から現れたんですか・・・ あ、みかんちゃんも久しぶり。」 ちょっと離れたところにあるアパートで漫画を描くのが仕事の山村みかんさん。 そして離れたマンションに住んでいて、今バイト中の立花みかんちゃん。 「ねぇねぇ、何かイイネタな〜ぁい〜?」 「すみません、ちょっと今それどころじゃ・・・あ!みかんさん!みかんちゃん!烈度の事、 最近何があったか知らない!?」 「え?烈度くんの事?ん〜最近会ってなかったから知らないな〜・・・何かあったの?」 しゃべっているのはみかん(ちゃん)。名前が同じだから呼び辛い。 名字で呼べばいいんだが。 「もしかしてもしかしてぇ〜!恋でもしちゃったんじゃないのぉ〜!? こ〜んな子とかあ〜んな子とかに惚れちゃってたりしてぇ〜!?」 しゃべっているのはみかん『さん』。勝手な妄想が多いのは有名である。 この二人、名前だけじゃなくキャラも似てるのかも。 「まさか・・・あいつに限ってそれはないですよ・・・。」 「それでさそれでさ!色〜んな子に恋しちゃって振られて不貞腐れてるのかもねー!」 「勝手な事想像しない下さいよ〜。」 零は苦笑いで答えた。 「はいはい、おしゃべりは良いですから、早く戻りますよ〜! じゃないと私が担当の先生に怒られちゃうんですからね!」 「あぁ〜あぁ〜!!せっかく良いネタが出来あがりそうなトコなのにぃ〜!」 みかん(ちゃん)はみかんさんをずるずると引きずって消えて行った。 零は苦笑いで立ちすくんでいたが、考え直してみた。 (みかんさんの妄想、よく現実味があるんだよな・・・おれも、あいつに限って なんて言っちゃったけど、今まであんなになる事なかったからわからないぞ・・・ もっと調べて見よう。) 零は、さらに事情を調べるため心当たりを探す事にした・・・。 零は自分の中学校に戻ってみると、烈度を連れた恵と佳奈子に出会った。 「あ、闇無。何処に行ってたの?こっち、ここまで連れてくるまでも大変だったよ〜。」 佳奈子が大変そうに言った。 「ああ・・・悪い、ちょっと心当たりを探してたから。」 「でも、闇無っていつもこんな烈度を落ち着かせて学校まで連れさせてたんだよね。 すごい。」 「恵が妙に感心して言うなんて何か珍しくないか?」 零は笑いながら言った。が、肝心の烈度はまだこんな状態だった・・・。 「充電ー!充電ー!」 「ねえ零、さっきからこればっかり言ってるんだけど意味わからないんだけど。 どう言う事なの?」 佳奈子が相談に乗るように零に尋ねると、 「ああ、腹が減ってるんだろ。家に着いたら何か勝手にでも良いから食うように伝えて 放っておいてくれ。後はおれがなんとかするから。」 「うん・・・。」 「おれは、何で烈度がこうなったのかもうちょっと調べてみるから、悪いが頑張って家まで 連れてってやってくれ。」 「わかった。必ず見つけてきて。」 恵が責任感強そうに言った。 「ああ。」 (とは言ったものの、心当たりなんてそうそうある訳が・・・) 「これこれそこの坊や、ちょっとこっちにおいでよ・・・。」 「はい?何ですかおばあさん。」 道に突然不思議なおばあさんが現れた。何か水晶のようなものに手を近づけて念じている。 「お前さん、困っているようだねえ。助けてほしいかえ?」 「そんな事が出来るんですか。」 「向こうの方角に学校がある・・・そこでそなたは何か情報を得られるじゃろう・・・。」 「向こう・・・西園寺たちの中学校の方角だ・・・。そう言えばまだあいつたちに聞いて なかったな・・・ありがとう!おばあさ・・・?」 振りかえって見るともうすでに老婆の姿はなくなっていた。机に水晶を置いていすに座って 居たはずなのに・・・あれは幻?何だったのか。 「とりあえず、あのおばあさんの言う通りにしてみよう。今はどんなかけらの情報も 惜しい。」 零は早足で市立第四中学校へ向かった・・・。 「・・・でも、さすがに誰も居ないよな。もう5時だし。」 学校の時計はもう5時を回っていた。すると、学校の鐘が鳴り出した。下校時間だ。 夕方に光る紅の太陽が、中学校を照らす・・・辺りは誰も居なく、妙にし〜んとした感じ だった。 零はまたとぼとぼと歩き出した。 「・・・せっかくここまで来たんだから・・・あいつたちの家に行ってみよう・・・。」 零は、かけあしで西園寺の元へ向かった。 「・・・は〜は〜・・・着いた・・・。」 しかしそこはまだ寺の下。見上げるほど高く続くこの階段を上らなければ 寺にはたどり着けない。 零は再びとぼとぼ階段を登りはじめた。しかしその様子は、どうしたものか、 魂の抜けたぬけがらが自動的に動いているように、階段を登るリズムは同じだった。 頭の中をぐるぐる回転させながらようやく寺にたどり着くと、零は一度立ち止まった。 本堂を見てから玄関を見てまた再びとぼとぼと歩き出す。 そして西園寺のインターホンを押した。 ピンポーン・・・ はーい 中から可愛らしい声が聞こえる。 ガラガラっ 「こんばん・・・あれ?零くん、どうしたの?こんな時間に。」 「未夢どうした・・・?あ・・・。」 「久しぶりだな西園寺。元気に暮らしてるか?」 「いいや。毎日こいつのせいでくたくただ。」 「だ〜れのせいですってぇ〜!?」 「さて〜だ〜れのせいでしょうねぇ〜!?」 未夢と彷徨は舌をベーっと出し合いながら、苦笑いの言い合いをしている。 未夢は学校が終わってから時折こっちの方へ遊びに来ていたりした。 「・・・なあ2人とも・・・烈度が最近こっちの方に来なかったか・・・?」 「え・・・?」 零の深刻な様子に、2人は急に喧嘩をやめた。 「烈度くんが、居なくなっちゃったの・・・?」 「いいや・・・居る・・・居るけど・・・。」 「・・・何だ・・・?」 彷徨は質問した。すると零は答え始める。 「あいつ・・・一週間くらい前から急に壊れ始めて・・・ 今まで落ち着かせて学校に行ってたけど、今日は直ってくれなかったし・・・ 色々心当たりを探して見たんだが、誰も知らないみたいで・・・」 「零くんって、そんなに烈度くんと仲が良かったんだね・・・。」 未夢は零がほとんどしゃべっていた事を見た事が無かった上に、 烈度の事になって色々話している姿を見てそう思った。」 「未夢、今はそれどころじゃないだろ。零、残念だがあいつが最近こっちの方へ来た事は 無い。来ているのかもしれないけれど、おれたちは何も知らない。」 「・・・そうか・・・邪魔したなあ・・・またな。」 「待てよ。せっかくここまで来たんだ。せめて仏さまにでもお願いして見ると良い。 おれはあんまり神仏を信じ切っている訳じゃないけど、一応寺の息子だから勧めてみた。」 「苦しい時の神頼みか・・・そうだな。よろしくお願い頼む。」 彷徨が零を本堂に案内して、零を仏像様の前に座らせた。 零が祈っている様子を、未夢と彷徨は後ろから悲しそうに見ていた。 (神様・・・苦しい時だけお願いするようで、申し訳ありません。 でも今は、何が何でもあいつを助けてやりたい。その手を貸して下さい・・・。) この願いは、果たして神様に届いたのだろうか? それは運命だけが知る事だろう。 零は未夢と彷徨に礼を言い、西園寺を後にした。 家に帰って見ると、壊れた烈度と、そして恵と佳奈子がまだ居た。 「あれ?お前らまだ帰ってないのか?夕飯も食ってないみたいだが・・・大丈夫か?」 「烈度がこんな状態なのに放って置けないよ・・・家にはもう連絡したから大丈夫。」 恵が言うと、佳奈子もうなづいた。佳奈子も同じらしい。 「恵・・・佳奈子・・・すまない・・・。」 「・・・水臭いよ・・・。」 佳奈子が悲しそうに言う。 「それより、何か情報得た?」 「いいや・・・何も・・・何もわからない・・・わからなかった・・・。」 「そう・・・。」 「ガガガガガガ・・・。」 「・・・。」 烈度の左義足と右義手がガタガタと動いている・・・烈度の制御が効かなくなった為、 暴走しているようだ。 まるで今の烈度は心身障害者のようだった。 そんな烈度を見ていた恵と佳奈子は、そっと顔を抑えた。 (烈度・・・。) こんな見苦しい烈度は見た事が無い。零はいつもの冷静さを失い、一人の兄弟を無くしたかの ような錯覚にとらわれた。冷汗を出し様々な記憶が駆け巡る。 (おれでは、お前を助けられないのか・・・?) 「とりあえず、お前らはもう帰れ。後はおれが何とかするから。」 とは言ったものの、零には自信は無かった。 「ダメだよ!こんな烈度を放って行ける訳ない!私はここに残るよ!」 「私もここに・・・。」 恵も佳奈子も、ここに居ると言う。 母さん(零は烈度の母の子ではないが、そう呼んでいる)は今日遅くなるって 言ってたし・・・ 「お前たちがそれでいいのなら、おれはその方が助かるけど・・・。」 もう6時だ。 とりあえず零は恵と食事を作り、佳奈子は烈度の相手をする事にした。 「;:」:pl、@、l@pl、・・・〜。」 「え?何・・・?」 「どうかしたのっ?」 「うん〜・・・烈度が何か言ってるみたいで・・・。」 「何だって?」 零は料理を中断し烈度の元へ駆け寄ってきた。そして烈度の口に耳を近づける。 「行クナ・・・。」 「行くな・・・?」 どう言う事だろう?行くな? 訳をわかっていない零たちは、それを聞いても何の事か全然わからなかった。 「もうこんな烈度を見てるなんて嫌・・・!」 佳奈子は叫び出してしまった。恵もつられて目線を横にする。そして零は震え始めた。 (烈度・・・!) 料理が出来あがった。 四人で食事をするなんて、学校の弁当以外では久しぶりだ。 でも、まさかこんな形で四人で食事をする事になるなんて誰も思わなかっただろう。 烈度は下にうつむきながら、料理をほおばり始めた。 そしてガリガリと噛む音を鳴らしては飲みこんで行く。零たちは食欲を失った。 それは下品だからではなく、何よりも悲しかったから。 零たちもどうにか食事を食べ終えたが、それは決しておいしい料理だとは言えなかった。 友が苦しんでいるのに、どんなおいしい料理でも笑って食べられるはずも無い。 小学生の頃から苦労を共にしてきた四人だが、烈度一人欠けるだけでもこんな事になる事は、 予想してはいたが現実にはならないで欲しかった。 恵と佳奈子は今日のところはとりあえず帰って行った。 時刻はもう七時半。 いつもならこれから2人で食事の後片付けをしたり、宿題をやったり、遊んだりするのだが。 母さんがまだ帰ってきていない上に烈度がこの調子。零はやる気を失った。 「何もやる事が無い・・・。」 本来やる事があるのに、やる気が無い。寝るか・・・でも今から寝れるわけでもなく、 何をすれば良いのかさっぱりわからない。 烈度は落ち着いたのか、黙り込んでしまった。 寝れるわけ無いけど、でももう疲れた・・・何も考えたくない・・・。 寝よう。 烈度、今日はおれと寝ようぜ。久しぶりの2人きりだ。 だが、それは決して嬉しい事ではなかった。 小学生の頃、よく一緒に寝ながら星を見たよな〜。 あの頃は、良かったな。烈度。昔のお前に戻ってくれ。 おれは喧しいのは嫌いだが、お前は楽しい。 烈度、戻ってくれ。 そして零は浅い眠りについた。 烈度はどうなったのか? 眠っているのか起きているのかさえわからない。 正真証明の人間なのに、まるで電源の切れたロボットのよう。 果たして、烈度は直るのか・・・? 『オマエタチハ ワタシヲナオスコトガ デキルノダロウカ』 ===================================================================== written in 2003.10.26